書店員矢部潤子に訊く/第4回 お店を動かす(1)品出しを優先する

第1話 品出しを優先する

── 今日はですね、お店の回し方についてちょっと伺いたいんですよ。

矢部 はいはい。

── 先日とある本屋さんを訪問したら、もう店内が片付いていないんです。ワゴンは10台くらいグチャグチャに出ていて、ダンボール30箱くらい売り場に出しっぱなしの状態で。午後2時くらいに伺ったのですが雑誌もまだ半分くらいしか出してなかったりという状況だったんですね。たまたまその日はスタッフがお休みだったのかもしれないんですけど、でも、こういうお店ってあると思うんです。決してそこで働いている書店員さんたちが手を抜いているとかではなく......。

矢部 もうね、なにもかも終わらないのね。

── そういうところの仕事の調整って、いったいどうしたらいいんだろうと思ったんですけど、書店の従業員の人数に応じて納品量を変化させるっていうことは基本的にはないわけですよね?

矢部 ないでしょうね。次は崖下っていうときの最終手段としてはあるかもしれないけど。

── やっぱりないですよね......。でもあれって、さばける物量でまわさないと、新刊とかずーっと台車の上に置きっぱなしとかになっちゃいますよね。

矢部 そう。本屋として意味がないよね。新刊もきちんと並べられなくて、常連のお客さまは店頭のブックトラックを見に来る習慣が付いちゃう。

── 書見台には出版社からの郵便物が1ヶ月とか2ヶ月分あふれちゃって雪崩をおこしているんです。

矢部 見てられませんね。

── おそらくバックヤードにもFAXや資料が山積みになってるはずで、今、多くの本屋さんがそういう状況に追いつめられているんじゃないかと心配になってしまったんですよね。

矢部 そうなんだろうね。

── でも、みなさん、やる気はあるんです。そういう方々の手助けになるべくお話を今日はお願いしたいんですけど。荷物(本や雑誌)を止めるっていう交渉は無理なんですかね?

矢部 荷物を出す人も時間もないので、本を送るのを止めてくださいって言うのはちょっと乱暴ですね。まず精度の高い、適正な送品に改正しないとね。配本があって嬉しいと思ってたから、止めるなんて考えたこともなかったけど、配本を見本とすれば、後は注文でもいいんだよね。目利きさえ出来るなら、そもそも配本を0冊にしてもいい。今は、事前にタイトルごと送品数を指定できるのかな。もちろん上限1、2冊までとかの縛りはあるのかもしれないけど。

── 売り場の規模と客層を考えて自分で判断すればいいわけですね。パターンの配本でなく。

矢部 首都圏の大型店ということでなければ、配本はオール1冊でもいいかもしれないよね。その1冊を見て追加注文を出す。ましてや郊外や地方だったら売れるスピードに見合って、例えば都心部のランキングを見てから発注するって判断もある。そのタイムラグも担当はわかっていると思うし。売上げロスなく、かつ店舗のスペースに合わせて発注するっていうのがいいのかな。

── でも実際は毎日毎日大量の新刊や補充品が納品されてきてるわけです。あのスパイラルって店側からはコントロールできないものなんでしょうか。矢部さんが郊外の小さなお店に異動になったときってどうだったんですか?

矢部 荷物はそんなに多くなかったですね。開店前に一便で、雑誌はいつも多くて大変だったけど、書籍は多い日でも30箱くらい。開店前に雑誌を並べなきゃいけないことと、書籍の開梱とで、午前中に人を厚くする体制が既にできてたしね。主婦のアルバイトさんたちが良く働いてくれるんだもん。なので、完璧ではないけど、異常に滞ることはなかった。

── 注文してないけどなんだか届くみたいな本はなかったんですか?

矢部 注文してないけどなんだか届くってのは、自動発注だよね(笑)。単行本の新刊配本で、普通は1、2冊なのに、あるひとつの出版社の専門書だけいつも必ず5冊入荷してきて、その理由が不明で、明らかに無駄な送品だったのが不満だった。で、配架はなんとかできるんだけど、午前中に人件費使い切ってるから、返品作業も滞りがちだし、フェアやきめ細かい陳列とかができないんだよね。人はもうホントにギリギリでした。

── 人、減ってますよね。削れるところが人件費だけなんで。

矢部 たぶんあの頃よりもっと厳しくなってると思います。

── そういう場合は、お店の側から配本ランクを下げてくれって言ったりするもんなんですか?

矢部 配本ランクを見直すっていうのは、やらなきゃいけないものですね。売れなければ下げなきゃいけないし、売れていれば上げる。杉江さんの見たそのお店のような状態は、商品量のコントロールだけじゃないかもね。お店を売れる状態で回していくためには、方向を定めて仕事するようにしたいかな。これ以上人が増えることはないから、最小限の人員で店を守り、かつ売れるお店にしていくには、無駄なことをしないで、懸命に本を出すという方向に動くと。

── 仕事の優先順位を間違っている可能性があると。確かに仕掛けコーナーとかは充実していました。

矢部 仕掛けって、大きな平台が1回の注文で済むし、考えずに積んでもたぶん大丈夫だし、お店独自の色も出せるってことで、そこばかり充実しがちですね。でも、新刊や補充の品出しが最優先でしょ。それを捨て置いて、自分が本当にやりたいのはこっちなんだっていう仕事をやってしまうと、お店が劣化していっちゃう。

── 順番が間違っている?

矢部 そう。優先順位が違う。

── 一番の優先順位は、来たものを出す。

矢部 もちろん!! 商品量や人員、作業量が見合わなくなってくると、毎日終わらないから嫌になっちゃって、それで好きな仕事を優先しちゃおうって気分になってきてるかもしれない。古い書店員だと、心がヘタってくると、ひとり時間外に残って棚を入れ替えたりフェアを作ったりして、ヘンな慰め方をするんだけどね(笑)。

── そうなんですか。

矢部 棚に癒してもらうんだ(笑)。

聞き手:杉江由次@本の雑誌社

(第4回 第2話に続く)


矢部潤子(やべ じゅんこ)
1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後、新所沢店新規開店の求人に応募してパルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て、93年渋谷店に開店から勤務。2000年、渋谷店店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店に異動。人文書・理工書、商品部、仕入など担当しながら2015年閉店まで勤務。その後、いろいろあって退社。現在は㈱トゥ・ディファクトで、ハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる。