ナチに翻弄された少女との不思議な縁〜『サラの鍵』
文=東えりか
ナチスドイツ、ユダヤ人虐殺、アウシュビッツと聞くと、暗く悲惨な出来事だという認識しか持たない。日本人には遠い話だしもはや歴史の一部でしかない。しかし『サラの鍵』(新潮社)を読むと、そんな遠い出来事が、すぐそこで繋がっているかもしれないと思えてくるのだ。
時は1942年7月、場所はなんとパリの中心部。ドイツ軍の占領下にあったフランスでフランス警察によるユダヤ人の一斉検挙が行われた。近所の住人やアパートの管理人などによって通報されたユダヤ人たちは、家族全部が強制連行され「ヴェロドローム・ディヴェール」(通称ヴェルディヴ)という屋内自転車競技場に集められた。その数約8000人。やがて彼らはアウシュビッツに送られ殺される運命が待ち受けている。
45歳のジュリアはフランス人と結婚してパリに住むアメリカ人のジャーナリスト。雑誌の取材で、このヴェルディヴについて調べ始め、一人の少女サラとその家族にたどり着く。60年の時を越え、サラとジュリアの不思議な縁が次第に浮かび上がる。
現代に生きる私たちにも、歴史に埋もれた多くの繋がりがある。読み終わると、胸になにか暖かい火が点る。そんな美しい小説だ。
(東えりか)