R-18文学賞から強力新人登場〜『ふがいない僕は空を見た』

文=東えりか

 R-18文学賞をご存知だろうか。「女性が読んでもナチュラルに感じられるエロティックな小説」のために、新潮社が創設した文学賞で、9回を数える。応募も審査も全部女性だけ。過去の受賞者には豊島ミホ、宮木あや子などがいて、新しい女性作家の登竜門として注目を浴びている。
 昨年の受賞者、窪美澄のデビュー作『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)が発売された。受賞作は冒頭の「ミクマリ」。コスプレ好きな主婦と高校生男子の倒錯したセックスを描いた短編は、受賞後一読して「なんじゃ、こりゃ」と当惑した。改行のあまりない、ずらずらと長いセンテンスは漢字が少なく読みにくい。倒錯した性も、なんかぎこちなくて感情移入ができない、つまり、つまらない小説だと思ったのだ。
 しかし、上梓された本書を読んで、あまりの面白さにぶっ飛んだ。「ミクマリ」に登場する人物がどんどん成長し、なんとも素晴らしい青春小説になっているではないか。近年、こんなに小説感が覆された作品はない。『終点のあの子』を今年の新人No.1としたのは保留する。どうやら2010年は新人の当たり年のようだ。
(東えりか)

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