中毒性抜群〈粘膜〉シリーズ第三弾

文=杉江松恋

 飴村行の第3長編『粘膜兄弟』が5月25日に刊行された。同作は、飴村行が日本ホラー小説大賞長編賞を受賞したデビュー作、『粘膜人間』から書き続けている〈粘膜〉シリーズの最新作で、第2長編『粘膜蜥蜴』で第63回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門をを獲得している。〈粘膜〉シリーズは戦時下の日本を舞台にした連作で、『粘膜人間』に登場した究極の拷問「髑髏」など、常軌を逸した残酷描写が毎回話題となる。描かれている内容は凄惨極まりないのに、ページを繰る手が止まらなくなるほどの中毒性がある。気味悪いのに可愛らしく感じるキャラクターの魅力や、ついつい連呼したくなるフレーズのおもしろさから、伊坂幸太郎や初野晴など作家の中にも愛読者は多い。ちなみに『粘膜兄弟』の一押しキャラクターはフグリ豚のエキスパート・ヘモやん、一押しのフレーズは「ブー大」だ。訳がわからないって? 読めばわかるさ!
 なお、同書の刊行を記念して、5月27日に東京・青山ブックセンター六本木店で著者初のトークイベントが開かれた。その中で飴村は、『粘膜兄弟』を執筆したきっかけが「男のどうしようもない性欲を書きたかった」ことだと明かしている。物語はフグリ豚を飼育して生計を立てている双子の兄弟が、カフェーで働く美女・ゆず子に、童貞であることを見破られてショックを受けるという素敵な場面から始まる。〈粘膜〉シリーズ初の本格ラブストーリーであり、今時珍しく戦記文学の要素を持った作品でもある。なんだかよくわからないと思うが、そういう話なのだ。(作品はすべて角川ホラー文庫刊)

(杉江松恋)

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