どこよりも早い?!令和初、本の雑誌が選んだおもしろ本ベストテン発表!

文=本の雑誌特派員

  • ストーカーとの七〇〇日戦争
  • 『ストーカーとの七〇〇日戦争』
    旬子, 内澤
    文藝春秋
    1,300円(税込)
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  • 牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って
  • 『牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って』
    英之, 三浦
    小学館
    1,550円(税込)
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  • 小説という毒を浴びる 桜庭一樹書評集
  • 『小説という毒を浴びる 桜庭一樹書評集』
    桜庭 一樹
    集英社
    1,680円(税込)
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  • パリ警視庁迷宮捜査班 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
  • 『パリ警視庁迷宮捜査班 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』
    ソフィー・エナフ,山本知子,川口明百美
    早川書房
    1,980円(税込)
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平成最後の...で散々盛り上がった世の中ですが、令和になって一ヶ月が過ぎたところで書評誌「本の雑誌」が令和初のベストテンを発表! ルールは令和になってから出た本で面白いと思った本をいつもどおりの社内座談会で決定。たった一ヶ月でもこんなにおもしろい本が出ているのだ!

営A 令和になってひと月経ったところで、どこよりも早く令和のベスト10を決めましょう。
発人 じゃあ、読み終わったばかりの『夢見る帝国図書館』と『目撃』を。中島京子の『夢見る帝国図書館』は上野にある国際子ども図書館、あれが元々は帝国図書館といって今の国会図書館の前身だったんですよ。
営A 安藤忠雄が改修したんですよね。
発人 その図書館の明治初期からの歴史と作家が上野で出会ったおばあちゃんの波瀾万丈の人生が交互に語られる。本の雑誌の読者にはぴったりでしょ。
編A もうタイトルだけで勝ってる気がしますね。
発人 『目撃』の著者は『地の底のヤマ』という骨太の大河小説を書いた西村健ですが、これはなんと、どんでん返しミステリー。主人公は電気メーターの検針を仕事にしてる女性なんだけど、担当先で殺人事件が起こって、そのあとから誰かに尾行られているみたいだって警察に相談に行くわけ。殺人犯を目撃したのかもしれませんと。
営B それ以上はしゃべらないほうがいいかも(笑)。
発人 最後の最後にディーヴァー並みの怒濤の展開が待ってる。もう「えーっ!」って。
営B 面白そう。
発人 ただ、ちょっとやりすぎかもしれない(笑)。控えめに九位と十位でいいです。
編A わかりました。次は小林さん、お願いします。
経理 江國香織さんの『彼女たちの場合は』。
営A これは間違いないよね。
発人 別格ですね。間違いなく上半期のベストにも入ってくるでしょう。じゃあ、松村。
編A はい、ショーン・タンの『セミ』。セミがサラリーマンやってる可愛い絵本です。十七年間コツコツと無欠勤で働いてるんだけど、みんなにいじめられてるんですよ。
営B 可哀そう。私、セミ好きなんだよ。素手で捕まえられるもん。捕まえてブローチみたいに服につけてましたよ。
経理 えっ!?
編A いじめられながらも一生懸命働いて定年になって、仕事もなくお金もなく家もなくなって高いビルの屋上に行く、そのシーンがいいんですよ。令和初の絵本第一位です。あとは『パリ警視庁迷宮捜査班』。『特捜部Q』みたいな警察内のはぐれものチームが迷宮入りした事件を解決する話ですが、すぐご飯食べに行ったり、模様替え始めたり、明るいのがよかったです。
営B 私はまず、金原ひとみの『アタラクシア』。
営A あ、それ、オレも推そうと思ってたんだ。
営B よく本を読んでいて熱中したときに「本の中に入り込む」って言ったりするじゃないですか。金原ひとみの本って逆なんですよね。登場人物が自分に乗り移ってくるんですよ。
編A えっ何? 怖い。
発人 浜田さんはイタコになったようです。
営A で、「うっせんだよババア」とか言うんだよね。そんなの活字で目にするの久しぶりでしょう(笑)。でもこれが令和なんですよ。平成の時代の小説は身の回りの近場が舞台で何も起こらなかったけど、これからは激しいものになる。肉食系小説ですよ、令和は。
発人 平成三十年間の草食時代から肉食系に変貌する。
営A 昭和の終わりごろのようになる。九〇年代の村上龍とか山田詠美みたいな感じ。これ、いろんな話が出てきてまとまらなさそうじゃん。それが最後にキュッとまとまるんだよ。もう衝撃的ですよ。
営B もう一冊が『椿宿の辺りに』。これはもう梨木香歩ワールドですよ。とにかく面白い。
編A 佇まいの美しい本だよね。
営B うん。内容もいいのよ。あとは桜庭一樹の『小説という毒を浴びる』。桜庭さんの書評集ですからね、間違いない。
発人 ああ、いいねえ。
営B 帯に「読書は本当に自由なもの。思いっきり誤読したっていい。」って書いてある。見ただけでいい本ってわかりますね。
編A 杉江さんは?
営A 僕は『アタラクシア』を推します。大迫力ですよ。こんなパワフルな小説を読みたかった。あとは内澤旬子『ストーカーとの七〇〇日戦争』。体験記だけど、ノンフィクションとして昇華されている。自分が救われたいっていうのももちろんあったと思うんだけど、どうしてこうなったのかとか警察や弁護士はなぜこう動くのかっていうことがすごく調べられていて、読み物として優れた作品です。これはもう...。
発人 年間ベスト級だと。
営A 間違いないです。もう一冊、ノンフィクションで良かったのは『牙』。アフリカでの象の密猟の本なんだけど、Twitterで象の顔面ごとむしり取られてる画像が回ってたり衝撃的。
編A はい。編集の高野さんは校了間際で欠席ですからこれで出揃いました。一位は何にしますか。
発人 『アタラクシア』でいいんじゃない? 二人が推してるし。
営B 二位は『椿宿の辺りに』で。
営A 本当は内澤さんの『ストーカー』がダントツの一位なんだけど、ちょっと気が引けちゃう。
編A レギュラー執筆者はNGですからね。
発人 いったん「本の雑誌」の連載も終わったところだから、いいじゃん。『ストーカーとの七〇〇日戦争』を一位にしよう。
営B 『アタラクシア』が二位で『椿宿』が三位!
編A わかった。いいよ(笑)、『セミ』は四位で。
経理 江國さんの『彼女たちの場合は』を五位に。
編A 『パリ』は八位でいいです。『牙』が六位で。
経理 七位はどうします?
営B 空いてるなら『小説という毒を浴びる』で。
発人 令和は集英社の時代なのか(笑)。


〈これが令和のベスト10だ!〉
①『ストーカーとの七〇〇日戦争』内澤旬子/文藝春秋
②『アタラクシア』金原ひとみ/集英社
③『椿宿の辺りに』梨木香歩/朝日新聞出版
④『セミ』ショーン・タン/岸本佐知子訳/河出書房新社
⑤『彼女たちの場合は』江國香織/集英社
⑥『牙』三浦英之/小学館
⑦『小説という毒を浴びる』桜庭一樹/集英社
⑧『パリ警視庁迷宮捜査班』ソフィー・エナフ/山本知子、川口明百美訳/ハヤカワ・ミステリ
⑨『夢見る帝国図書館』中島京子/文藝春秋
⑩『目撃』西村健/講談社

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(「本の雑誌」2019年7月号より)

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