第94回:北山猛邦さん

作家の読書道 第94回:北山猛邦さん

大胆な設定、魅力的なキャラクター、意外性たっぷりの物理トリックで本格ミステリの醍醐味を存分に堪能させてくれる北山猛邦さん。あの独特な世界観は、どんな読書遍歴の中から生まれてきたのか? 本格ミステリとの出会いから、トリックに対する思い、自作のキャラクター誕生の裏話まで、意外性に満ちたお話を披露してくれました。

その2「新本格と出会う」 (2/6)

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――学校の図書室を利用することはなかったのですか。

北山 : 縁遠い場所でした。でも思い返してみると、高校生の時に図書委員をやらされたんです。それまで閉鎖されていた図書室が復活して、新しく本を入れなおしていて、その中に北村薫さんの『スキップ』があったんです。それを読んだのが、いってしまえばミステリにハマるきっかけでした。ちょうどハードカバーで出て少したった頃だったと思うんです。『スキップ』自体はミステリではないんですが、カバーの折り返しの著者紹介のところに、本格ミステリの作家だとあったんですよね。『スキップ』の内容とはかけ離れた紹介にちょっと驚いたんです。この人はどういう人なんだろう、と思って違う作品を手にとって、そこからハマりまして。それが高校生活の終わりくらい。受験に行く新幹線の中で『空飛ぶ馬』を読んだのを覚えています。

――円紫さんのシリーズの第一作目。"日常の謎"というものを読んでの感想は。

北山 : 人の死なないミステリということ自体が驚きでした、やはり。当時は"日常の謎"というものを全然知らなかったので、こういうものがあるのかとカルチャーショックを受けました。

――これから試験だという時にあんなに面白いものを読んでしまうなんて。

北山 : もう試験はどうでもよくなっていました(笑)。

――では、大学生になってから、本格ミステリをいろいろ読むようになったのですか。

北山 : そうですね。北村さんの『謎物語――あるいは物語の謎』というエッセイに綾辻行人さんの『時計館の殺人』が非常に面白かったとありまして。それまで本屋で「館」シリーズが並んでいるのは見ていたので、北村さんのエッセイを読んで、じゃあこのシリーズを最初から読んでみようと思って『十角館の殺人』を読みました。大学時代の夏休みに読んだ記憶があります。それが本格ミステリにハマるきっかけでした。

――『十角館の殺人』はどうでしたか。その後「城」シリーズを刊行されていることを思うと、「館」シリーズの影響は大きかったのではないかと。

北山 : ありきたりの表現になってしまうんですけれど、やはり衝撃的でした。影響も受けていると思います。当時は意識はしていなかったんですけれど、本格ミステリを構成する要素というものを知りましたね。こういうものが本格ミステリなんだということも分かったし、後に小説を書く時に参考となるものがあったと思います。

――そこからの読書の傾向は。

北山 : 「館」シリーズを一通り読んで、本屋さんに並んでいた島田荘司さんの『斜め屋敷の犯罪』を面白そうなタイトルだなと思って買って読んで、そこで改めて物理トリックの面白さを知りました。そこから島田さんの作品を読むようになったんですが、僕が手にとっていたのは文庫でした。たぶんリアルタイムで講談社ノベルズも刊行されていたと思うんですが、まだ手を出していなくて。

――その頃のメインの趣味は読書だったんですか。

北山 : そうですね。というか、大学に入ってからまったく友達のいない生活だったので...(笑)。

――え。それが理由ですか!

北山 : 周りに誰もいない、一人ぼっちの生活だったので、夏休みなんかは時間をもてあましていたんです。それで買ってきた本を積み上げて、片っ端から読んでいくということをやっていました。あの頃は本当に、本格ミステリに救われましたね(笑)。

――県内の大学ではなかったのですか。

北山 : 大阪まで行ってしまったんです。まわりも大阪弁の方ばかりで、いえ、それが壁になるということはなかったんですが、遊べる友達もいなくて。あの頃大学生活が充実していたら、本は読んでいなかったと思います。遊んでいたら『十角館の殺人』も『斜め屋敷の犯罪』も読んでいませんでした。そこからわっと広がって、エラリイ・クイーンやアガサ・クリスティー、他にホームズなども読みました。本格ミステリは、遡ることを要求されるジャンルというか。作中で過去の作品に言及されることが多いんですよね。それでどんな小説なんだろうと思って、本屋さんで調べたりして、海外作品も読むようになりました。とりあえず片っ端から読むという感じでしたね。

――これはやられた、という作家や作品はありませんでしたか。

北山 : 意味が分からないという意味では麻耶雄嵩さん。『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』などを読んで、自分の頭では到底把握しきれない内容を目の前にしてしまって、ショックを受けました。でも麻耶さんも文庫で読んでいたので、リアルタイムで刊行されていた講談社ノベルズを読むところまではまだいっていませんでしたね。

――一人の作家さんを知ると、その人の作品を一通り読むタイプなんですか。

北山 : そうですね。作家から読むタイプかもしれません。

――読書記録はつけていましたか。

北山 : 最初の頃はあらすじを5行くらいにまとめて、短く感想も書いていたんですが、次第に面倒くさくなってやめました。

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