第94回:北山猛邦さん

作家の読書道 第94回:北山猛邦さん

大胆な設定、魅力的なキャラクター、意外性たっぷりの物理トリックで本格ミステリの醍醐味を存分に堪能させてくれる北山猛邦さん。あの独特な世界観は、どんな読書遍歴の中から生まれてきたのか? 本格ミステリとの出会いから、トリックに対する思い、自作のキャラクター誕生の裏話まで、意外性に満ちたお話を披露してくれました。

その3「デビューに至るまで」 (3/6)

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――北山さんはメフィスト賞の出身ですが、メフィスト受賞作が刊行されている講談社ノベルズの存在を知ったのは何がきっかけだったんでしょう。

北山 : 記憶が確かではないんですけれど、森博嗣さんの『すべてがFになる』を文庫で読んで、その続きが読みたくて講談社ノベルズを読み始めたんだと思います。それまでは本屋に行くとやたら分厚い本ばかりが並んだヘンな棚があるという認識はあったのですが、マニアックな人たちが行く棚だと思っていました。でもそこからは自分も読むようになって。ちょうど霧舎巧さんがデビューしたばかりの頃で、面白そうなものが次々と刊行されていたんです。そこでメフィスト賞の存在も知りました。

――自分もきちんと小説を書こうと思ったのはいつ頃ですか。

北山 : ちゃんと書こうと思ったのは大学生の時間をもてあましていた時ですね、やはり。最初はキーボードも打てなかったので、まず4万円くらいのワープロを買って、キーの叩き方を覚えるつもりで小説みたいなものを書き始めました。

――それも本格ミステリを意識した内容だったのでしょうか。

北山 : 本格と呼ぶには値しないものです。月の探査衛星に死体を隠して宇宙に飛ばす、というような話でした。ちゃんと調べたら実際には探査衛星に死体ほどの重量のものは載せられないと分かっただろうけれど、当時は恐れを知らずに書いてしまいました。ただ、最初からミステリを書きたいとは思っていました。

――メフィスト賞に応募したのも、大学生の頃ですか。

北山 : 投稿するためにはじめて書いたのが『「クロック城」殺人事件』。投稿して編集者さんに読んでもらって、一度お会いしませんかとなったのが、大学4年の夏でした。卒業の年の3月に刊行されたんですけれど......。

――講談社ノベルズを読んでいたということもあると思いますが、ミステリの新人賞がいろいろあるなかで、なぜメフィスト賞を選んだのでしょう。

北山 : 鮎川哲也賞も考えたんです。でもちょっと幅の広い感じで書いてしまったので、ジャンル的な意味で、到底、通らないと思いました。メフィスト賞なら読んでくれるだろうと思って。

――確かにデビュー作の『「クロック城」殺人事件』はまず、終末の世界という舞台設定に驚かされますね。

北山 : 他の人と違うことをしなくちゃいけない、という気持ちがありましたし、そういう世界観で書いてみたい、という思いもありました。書いていた当時が2000年のちょっと後くらいで、2000年問題など、いろいろな混乱が起きていたことが記憶に新しかったんです。記念碑的な意味でもそういう世界を設定してみたくて。

――さらに第2作の『「瑠璃城」殺人事件』は時空を超えた話になっていますよね。それまでにSFやファンタジーは読んでいましたか。

北山 : 読んでいません。SFの方たちが築いてきたものを知らないので、何か突っ込まれたら「すみません」と言うしかないです。おそらく、読んだ人は最初、僕をミステリの作家じゃないと思ったはず。でも自分の中の方向性としては、まずミステリが中心にあって、そこからどうやって話を広げるか、だったんです。

――確かに、どの作品も巧妙な物理トリックが仕掛けられています。物理トリックへのこだわりはあったのですか。

北山 : それはいつのまにか、という感じです。最初に投稿するに当たって、これだ、という武器を持たないといけないと考えた時、面白い物理トリックで見せていこうと思ったんですね。最初に手に取った武器が物理トリックだったので、その後も、というわけです。それがよかったのか悪かったのか分かりませんが(笑)。

――こうしたSF的な設定と物理トリックの結びつきが意外でしたね。最終的なオチのつけ方も、独特なものを感じました。

北山 : あえて外さなきゃ、外さなきゃ、という気持ちがあったと思います。奇をてらう、じゃないけれど、どうしてもミステリを書いている人たちは、どこかで思わぬことをしてやろうと考えている。それを結末を含め、徹底的にやってしまったんですよね。はじめにトリックを考えて、それをうまく溶け込ませるには何が必要でどれくらい世界設定をずらしていけるかを考えつつ、自分が書きたいことを書いていました。微妙な"ずらし"のバランスというか。世界設定がずれたものであっても、物理トリックがあれば本格ミステリにすることができるし、それによって現実に留めることができると思うんです。

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