第94回:北山猛邦さん

作家の読書道 第94回:北山猛邦さん

大胆な設定、魅力的なキャラクター、意外性たっぷりの物理トリックで本格ミステリの醍醐味を存分に堪能させてくれる北山猛邦さん。あの独特な世界観は、どんな読書遍歴の中から生まれてきたのか? 本格ミステリとの出会いから、トリックに対する思い、自作のキャラクター誕生の裏話まで、意外性に満ちたお話を披露してくれました。

その6「音野順シリーズの最新作」 (6/6)

密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿
『密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿』
北山 猛邦
東京創元社
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踊るジョーカー―名探偵 音野順の事件簿
『踊るジョーカー―名探偵 音野順の事件簿』
北山 猛邦
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――最新刊の連作短編集『密室から黒猫を取り出す方法』、楽しく拝読しました。各編最初に犯人や目撃者の視点が描かれて、後から探偵役が登場してその犯行を暴いていく。これは『踊るジョーカー』の続編ですね。

北山 : このシリーズに関しては、ミステリであることをブレないようにするために、最初に殺人事件のシーンを置いて、そこから探偵を登場させるという構成を固定させています。

――毎回、驚きの物理トリックが登場しますね。

北山 : 破天荒といいますか、やりたい放題やっちゃっているんで。実際にトリックをひとつひとつ模型で再現してみても面白いかもしれないと思うんですけれど(笑)。さすがに、現実にできるかどうかはすごく難しいところです。でもありえるかどうかという話をはじめてしまうと、現実世界ではわざわざトリックを使って警察の目を欺こうとするよりも、トリックなど使わずにこっそり犯行に及んだほうが犯人にとっては安全ですし。やはり現実と可能性のバランスはうまくとっていかないと難しいので、そのためにちょっとまわりをずらすというか。そのトリックがあってもおかしくない空気を作ってしまうんです。トリックについて仔細にこうじゃない、ああじゃない、ということを言わなくてもいいんじゃないかという設定なり雰囲気なり展開なりを作ってしまう。

――それが、主人公たちのキャラクターだったりするんですね。作家の白瀬白夜が、友人で引きこもりがちな音野順を名探偵に仕立て上げていろんな事件に首をつっこむ。音野は嫌々ながらも、すぐさまトリックを見破って、おどおどと解説する。その様子がなんともおかしくて。

北山 : この2人がミステリによくあるような、性格も内面もよく分からない機械的な人間たちならトリックについてもツッコミが入りやすい。破天荒なトリックに相対することができるキャラクターが必要になるので、こうした人物になりました。

――おどおどキャラ、非常にユニークです。

北山 : よく覚えていないのですが、最初にこの短編を書き始めた頃、自信を喪失していて。自分の「あーもうダメだー」という気持ちを大げさに人格化したようなものです。音野順は僕の負の部分をデフォルメした、と言えますね。

――"負"といいますが、彼はとっても可愛い、愛すべきキャラクターですよ。白瀬とのコンビネーションもいいし。

北山 : 白瀬のキャラは僕のポジティヴな部分を極端に出していますね。音野がネガで、白瀬がポジなんです。あと、これは名前にペンギンの名称をいろいろ使っているんです。音野順はオンジュン(ジェンツー)ペンギン。岩飛警部はイワトビペンギン、今回登場する名探偵の琴宮(きんぐう)はキングペンギンで...。キャラクターとしてちょっと使ってみようかと思って。

――ペンギン好きなのですか。

北山 : 使っているうちにだんだん愛着が湧いてきて、旭山動物園に行ったりもしました(笑)。

――同じキャラクターがいろいろなトリックに挑む。こうした連作短編というのは、バリエーションをつけるのも大変だと思うのですが。

北山 : いろんなアイデアを単発で使えるのが短編のいいところだと思います。そこに毎回、音野と白瀬の二人を参加させて動かすという、分かりやすいシステムが出来上がっている。それは本格ミステリに合っていると思います。どうやって殺したかという、謎の部分を分かりやすく読者に提示できますから。

――このシリーズはまだまだ読みたいですね。

北山 : それが、今月、雑誌に最終話を書いていったんお休みという形にしたんです。でも最終話なのに音野順のお兄さんが探偵役で登場していて、音野順が主人公から降格したまま終わってしまったので...。どうにかしないと(笑)。

――それはもう、続編を楽しみにしてますよ。さて、今後やってみたいと思うことは。

北山 : 軽い、コミカルなシリーズを書いてきたので、今度は一変して重たいもの、マニアの人たちが泣いて喜ぶような(笑)、そういうものを書きたいなと思っています。

(了)