第109回:宮下奈都さん

作家の読書道 第109回:宮下奈都さん

日々の暮らし、小さな心の揺れを丁寧に描き出し、多くの人の共感を読んでいる宮下奈都さん。今年は一人の若い女性の成長を4つの段階に分けて描いた『スコーレNo.4』が書店員さんたちの熱烈な応援を受けて再ブレイク。福井に住む、3人の子供たちを育てる主婦でもある宮下さんが辿ってきた本との出合い、そしてつきあい方とは?

その3「繰り返し読んでいる同時代作家たち」 (3/4)

最後の息子 (文春文庫)
『最後の息子 (文春文庫)』
吉田 修一
文藝春秋
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完璧な病室 (中公文庫)
『完璧な病室 (中公文庫)』
小川 洋子
中央公論新社
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阿修羅ガール (新潮文庫)
『阿修羅ガール (新潮文庫)』
舞城 王太郎
新潮社
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袋小路の男 (講談社文庫)
『袋小路の男 (講談社文庫)』
絲山 秋子
講談社
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遊動亭円木 (文春文庫)
『遊動亭円木 (文春文庫)』
辻原 登
文藝春秋
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マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)
『マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)』
池澤 夏樹
新潮社
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――今生活のサイクルといいますと。

宮下:子供たちの集団登校の時間が7時40分で、そこで送り出して末っ子が帰ってくる14時すぎくらいまでは書いています。帰ってきた子供たちにその日の出来事を聞くのもいい気晴らしになりますね。忙しいときは夜書くことになったりもしますね。

――その後の読書生活はいかがでしょう。

宮下:節操なく読んでいます。今回、この取材に備えて本棚を見ながら、この10年くらいで何度も読んだ作品をチェックしてきたので、挙げていきますね。吉田修一さんのデビュー作「最後の息子」。『文學界』に新人賞受賞作として掲載されたものを読み、熱くなって勝手にいろんな人に薦めました。小川洋子さんの短編集『完璧な病室』に入っている「ダイヴィング・プール」、これは読んでいるとお尻がむずがゆーくなるんです。教会の子供の話でちょっと小川さんらしいグロテスクな部分も入ってくるんですが、読むたんびにお尻がむずむずするというのもすごいなと思っていて。いつかむずむずしなくなる日が来るのかもしれないけれど、そうなったら寂しいだろうと思います。あとは舞城王太郎さんの『阿修羅ガール』。舞城さんは同じ福井県出身ということもあって、全部読んでいます。正しい福井弁で小説が書けるんだ!と、衝撃を受けました。特別に好きなのが『阿修羅ガール』です。絲山秋子さんも全部読んでいます。中でも「袋小路の男」は愛しています。辻原登さんもたくさん好きな作品がありますが、1冊だけというと『遊動亭円木』です。池澤夏樹さんは『マシアス・ギリの失脚』か『スティル・ライフ』。伊藤比呂美さんの『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』、車谷長吉さんの『赤目四十八瀧心中未遂』、山本文緒さんの『アカペラ』も大好きです。あと最初に読んだのはいつなのか分からないけれど山田太一さんの『沿線地図』。それと中脇初枝さんのYA『祈祷師の娘』は「ここが大好き!」と感じる箇所がたくさんある本なんですが、あまり読んだという人を知らなくて。もっと読まれていい本だと思っています。

――同時代の作家もどんどんお読みになっているんですね。

宮下:今面白いものを今読まないと損、と思っていますから。面白いものはどんどん読みたいですね。自分でも小説を書くようになってからは、このシーンはよかったな、とか、あの部分はこうだな、と何かを得ようと思いながら読んでしまう部分もあるかもしれません。でも面白い本を読むことってすごく嬉しいことだなって本当に思います。同世代の人にもどんどん書いてもらいたいと思いますし、それは自分が本を書いているということとはまったく別ですね。

――読む本はどのように選んでいるのですか。

宮下:それこそ、この「作家の読書道」を読んで、その方がものすごくお薦めされている本はすぐ買います。新聞の書評欄もよく見ているほうだと思いますね。記事を切り抜いてすぐ注文したり買いに行ったりしています。でも読んでみると書評のほうがいい、ということもある。なので切り取った記事をその本に挟んでとっておいたりします。書評自体を読むのも好きなんですが、昔は左右されていたと思います。薦められているものを読んで面白いと感じられなかったら、自分が読めていないんだと引け目を感じていたんです。でも見るポイントが違うだけじゃないかと最近ようやく思えるようになりました。おこがましいけれど「この書評には私が面白いと思ったポイントは書かれていないんだな」と冷静に思えるようになったんです。だから年を取るのっていいなと思う(笑)。あとは、例えば山田太一さんがすごく好きなので、山田さんが褒めている本は無条件で読みますね。

――そういえば、外国作品はあまり読まないのですか。

宮下:昔はアーヴィングが出たら絶対に読んでいたりはしました。でも今は新しく開拓するのが難しいですね。誰かが書評で褒めているものを選ぶことが多いです。あるいは、自分で開拓するとしたら、新潮社のクレストブックスのようにレーベルで選んだり。話題になっているものは普通にいろいろ読んできたと思いますが、あまり繰り返して読んだものがないということは、やはり日本文学のほうが好きなのかもしれません。

――繰り返し読むというのは、どういう部分を楽しんでいるんでしょうね。ストーリー展開はもう分かっているわけですし。文体でしょうか。

宮下:ああ、どうだろう。確かに、読んでいてこれは絶対に書けないなと思う文章ってあるんです。伊藤比呂美さんがすごく好きなんですけれど、なんでだろうって言いたくなるくらい、私には絶対に書けない文章をお書きになる。絲山さんも非常に美しい日本語で書かれていますよね。でも魅力はそれだけじゃない。絲山さんは天才じゃないかと思うんです。私、同い年なんですけれど、年齢じゃないんだなってつくづく思いますね。私の中ではあの人は別格。読んでいてものすごく気持ちよくなったり、気持ち悪くなったりする。そんな風に感じさせてくれる人ってほかにあんまりいないんです。間違えると自分も書けるんじゃないかって錯覚するくらい、普通に書かれたように見えるものもある。でもね、まったく違うんですよ。それはもう、技術の問題じゃないんです。彼女が今書いていて、新作が読める、純粋にそのことを喜んでいます。

――最近は読書記録はつけているんですか。

宮下:あえてつけないことにしています。面白いことを書けなくて、読み返してもつまらないので。昔は面白くなくても最後まで読んで一生懸命感想をつけていたので、健気でしたね。今はやはり「いつになったら面白くなるんだろう」と思って読んでいくにも限界があって途中でやめてしまう本もありますし。でもタイトルくらいはメモするようにしています。

とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起
『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』
伊藤 比呂美
講談社
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赤目四十八瀧心中未遂
『赤目四十八瀧心中未遂』
車谷 長吉
文藝春秋
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アカペラ
『アカペラ』
山本 文緒
新潮社
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祈祷師の娘 (福音館創作童話シリーズ)
『祈祷師の娘 (福音館創作童話シリーズ)』
中脇 初枝
福音館書店
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