第193回:奥田亜希子さん

作家の読書道 第193回:奥田亜希子さん

すばる文学賞受賞作品『左目に映る星』(「アナザープラネット」を改題)以降、一作発表するごとに本読みの間で「巧い」と注目を集めている奥田亜希子さん。長篇も短篇も巧みな構築力で現代に生きる人々の思いを描き出す筆力は、どんな読書経験で培われてきたのでしょうか。デビューに至るまでの創作経験などとあわせておうかがいしました。

その3「文章に惹かれた短篇集」 (3/5)

  • ブギーポップは笑わない (電撃文庫)
  • 『ブギーポップは笑わない (電撃文庫)』
    上遠野 浩平,緒方 剛志
    KADOKAWA
    605円(税込)
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  • キノの旅 the Beautiful World (電撃文庫)
  • 『キノの旅 the Beautiful World (電撃文庫)』
    時雨沢 恵一,黒星 紅白
    KADOKAWA
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  • フルメタル・パニック! 1_戦うボーイ・ミーツ・ガール_フルメタル・パニック! (富士見ファンタジア文庫)
  • 『フルメタル・パニック! 1_戦うボーイ・ミーツ・ガール_フルメタル・パニック! (富士見ファンタジア文庫)』
    賀東 招二
    KADOKAWA/富士見書房
    682円(税込)
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  • 月と貴女に花束を (電撃文庫)
  • 『月と貴女に花束を (電撃文庫)』
    志村 一矢,椎名 優
    KADOKAWA
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  • タイム・リープ<上> あしたはきのう (電撃文庫)
  • 『タイム・リープ<上> あしたはきのう (電撃文庫)』
    高畑 京一郎,衣谷 遊
    KADOKAWA
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  • 龍と魔法使い 1 (集英社コバルト文庫)
  • 『龍と魔法使い 1 (集英社コバルト文庫)』
    榎木洋子
    集英社
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  • シュガーレス・ラヴ (集英社文庫)
  • 『シュガーレス・ラヴ (集英社文庫)』
    山本 文緒
    集英社
    503円(税込)
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――高校時代の読書はどうでしょう。

奥田:引き続き漫画とライトノベルにハマっていました。もうすぐアニメ化する上遠野浩平さんの『ブギーポップは笑わない』が流行っていたころですね。時雨沢恵一さんの『キノの旅』や賀東招二さんの『フルメタル・パニック!』、志村一矢さんの『月と貴女に花束を』、冴木忍さんの『天高く、雲は流れ』、高畑京一郎さんの『タイム・リープ』や『ダブル・キャスト』、榎木洋子さんの『龍と魔法使い』が印象に残っています。
他は田中芳樹さんの『創竜伝』、赤川次郎さん、東野圭吾さんや宮部みゆきさん。この辺りは親の影響ですね。一般文芸の中でもエンターテインメントやミステリみたいなものを読むようになりました。
忘れられないのが山本文緒さんの『シュガーレス・ラヴ』という短篇集です。どれも大きな起承転結のある話ではなくて、人の心が書かれているだけなのに、それがすごく面白い。こういう本もあるのかとびっくりしました。文章に美しさを見つけたり余白を読んだりする感覚は、この時に知ったような気がします。山本文緒さんはかなり読みました。今も好きです。高校時代の読書の中では、ここが一番、今に繋がっているような気がします。
高校では図書係に就くことが多かったんですが、年に1回か2回、先生が私達を連れて書店に行って、片っ端からカゴに本を入れていい、という日があったんですよ。

――夢のようですね。

奥田:私たちの代で図書室にライトノベルを充実させました(笑)。創作活動は、友達と共通の世界観でライトノベルを書いたり、漫画やイラストで二次創作をしたりしていました。地方の同人誌即売会に出たこともあります。部活は美術部でしたが、ほぼ幽霊部員でした。家にネットが繋がって、部活どころではなくなったんです。イラストを描いてアップしたり自分のホームページを作ったり、好きな漫画家のファンサイトに出入りするようになって。実はそこで知り合った人と結婚しています。

――へえ! 高校時代にネットで知り合った方とその後結婚したということですか。そっちの話に興味津々なんですが(笑)、会える距離に住んでいた人だったんですか。

奥田:いえ、千葉の人です。高校1年生か2年生のときに知り合って、3年生から付き合い始めたので、遠距離恋愛でした。それで、大学卒業後は千葉で就職したんです。

――大学は愛知大学ですものね。

奥田:はい。大学に入るとバイトを始めたこともあって、生活が大きく変わりました。読書量も減りましたね。そんな中で東野圭吾さんや宮部みゆきさんを引き続き読み、あとはドロドロした恋愛ものに惹かれて、小池真理子さんのような、ずっしりくる本を手に取るようになりました。京極夏彦さんに出合ったのも大学でした。友人に薦められて佐藤愛子さんの『血脈』を読んだり、宗教学の課題で遠藤周作の『沈黙』を読んだりもしましたね。高校生のときに授業で読んで結末は知っていたんですけれど、あれってひどいネタバレですよね。夏目漱石の『こころ』も教科書では冒頭から中盤まで大きく省かれている。何も知らずに頭から読んでみたかったです。
『沈黙』の面白さは衝撃的でした。神様をどう定義するかという話であり、人の心の揺れが綿密に書かれていながら、エンターテイメントの要素もある。「彼だけは大丈夫」と言われていた神父がなぜ転んだのか。その謎に物語が引っ張られている。本当に全部がある小説だと思いました。
それと、大学生の時に大河ドラマ「新選組!」が始まり、それを機に新選組にちょっとハマりました。司馬遼太郎の『燃えよ剣』や浅田次郎さんの『壬生義士伝』を読みました。この頃に村上春樹さんや森博嗣さんにも出合いました。でも私、人に薦められた作家の1作目がうまく選べないんです。村上さんは、まず手に取ったのが『アフターダーク』で、他の村上さんの作品とは少し違うじゃないですか。森博嗣さんも人気シリーズの作品ではなく『どきどきフェノメノン』を選び、米澤穂信さんは『遠まわりする雛』で、これはシリーズ途中の短篇集なんですよね。「なぜそこから!?」と言われることが多いです。

――大学では何を専攻していたのですか。

奥田:東洋哲学です。家から通いやすいということで愛知大学を受験したんですが、私が行きたかった日本文学科は偏差値が高くてどうしても受からず、哲学科に入りました。でも、その哲学の授業がすごく面白くて。最初の講義で先生が、帽子をかぶったままの男の子に「君なりの哲学があって帽子を被っているのかな」って訊いていて、「やばいところに来た」って思いました(笑)。
専攻は東洋ですけれど、西洋哲学もサラッと学ぶんです。その西洋哲学が面白くて、ソクラテスの対話篇も自主的に読みました。

  • どきどきフェノメノン A phenomenon among students (角川文庫)
  • 『どきどきフェノメノン A phenomenon among students (角川文庫)』
    森 博嗣
    KADOKAWA
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  • 遠まわりする雛 (角川文庫)
  • 『遠まわりする雛 (角川文庫)』
    米澤 穂信
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    692円(税込)
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