第213回:河﨑秋子さん

作家の読書道 第213回:河﨑秋子さん

東北と北海道で馬と暮らす人々を描いた物語『颶風の王』で注目され、単行本第二作『肉弾』で大藪春彦賞を受賞、新作短編集『土に贖う』も高い評価を得ている河﨑秋子さん。北海道の酪農一家で育ち、羊飼いでもあった彼女は、どんな本を読み、いつ小説を書きはじめたのか。これまでのこと、これからのことを含め、たっぷりと語っていただきました。

その2「読書感想文が嫌だった」 (2/5)

  • ぼくらの七日間戦争 (角川つばさ文庫)
  • 『ぼくらの七日間戦争 (角川つばさ文庫)』
    宗田 理,はしもと しん
    KADOKAWA
    814円(税込)
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  • 星へ行く船シリーズ1星へ行く船
  • 『星へ行く船シリーズ1星へ行く船』
    新井素子
    出版芸術社
    1,540円(税込)
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  • 新井素子SF&ファンタジーコレクション1 いつか猫になる日まで グリーン・レクイエム
  • 『新井素子SF&ファンタジーコレクション1 いつか猫になる日まで グリーン・レクイエム』
    新井 素子,日下 三蔵,シライシ ユウコ
    柏書房
    2,970円(税込)
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  • 夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)
  • 『夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)』
    ロバート・A. ハインライン,Heinlein,Robert A.,正実, 福島
    早川書房
    1,303円(税込)
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  • 三国志 全60巻箱入 (希望コミックス)
  • 『三国志 全60巻箱入 (希望コミックス)』
    横山 光輝
    潮出版社
    27,654円(税込)
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――学校の図書室にはわりと本が豊富にあったんですか。

河﨑:はい。今思えばちょっと偏っていたかもしれないと思うんですが、子どもの目から見ると壁一番に背の高さ以上に本棚があって、まあ幸せでしたね。わりとまんべんなく読んでいました。漫画の偉人伝のようなものとか、学研の「ひみつ」シリーズとか。
 それと、1、2年生の時の担任の先生が、学級文庫に小学館のハードカバーで金色の縁取りのついた海外児童文学シリーズみたいなものを置いていて。わりと容赦のない内容のヨーロッパの昔話などが入っているシリーズが60冊くらいあって、それは毎日読んでいました。

――容赦のない、というと...。

河﨑:「残酷なグリム童話」みたいなものですね。何か裏切りをした王子様の妹さんが森の中で鎖で縛られて、目の前に樽をどんと置かれて、「お前の涙がこの樽いっぱいになったら放してやる」と言われる、とか。どう考えてもそれは「死ね」と言っているようなものですよね。

――中学年、高学年での読書は。

河﨑:高学年くらいになると、兄や姉の本を読む癖がついてきて。宗田理さんの『ぼくらの七日間戦争』のシリーズとか。このあいだ映画がテレビで再放送されていたので「懐かしい」と思ってつけていました。古びた感じがしなかったですね。ほかには新井素子さんとか。ちょうどコバルト文庫全盛期ですね。

――『星へ行く船』とか?

河﨑:はい。読みましたね。8歳離れた姉が中学生の頃に新井素子さんにはまって、コバルト文庫がいっぱい並んでいました。新井さんは『グリーン・レクイエム』なども読みました。
 SFといえば、友達で星新一さんが好きな子がいたので借りて読んでいました。中学校の頃は、兄の本棚から借りてハインラインの『夏への扉』とかも。いちばん上の兄はSFが好きで、50歳になりますけれど今も「まだこのシリーズの続きが出ない」「まだこれが翻訳されていない」とかぶつぶつ言っています。

――学校では作文や読書感想文を書くのは好きでしたか。

河﨑:苦手でした。何を書けばいいのか分からなかったんです。今思えば教育の問題だったのかなと思うんですけれども、きちんと「読書感想文とは」と児童に教えないままに「この本を読んで読書感想文を書きなさい」と原稿用紙を手渡されたので。口頭で「読んで何々と思いました、の羅列ではなくて、自分だったらどうなのかを考えて書きなさい」って言われるんですけれど、そんなことを言われても、子どもだからお手本がないとできなかった。なのでとにかくマス目を埋めるためだけに書いていました。むしろ、原稿用紙恐怖症になる感じで。「冬休みの間に原稿用紙2枚書いてきなさい」と言われても「なんて長いんだろう」と思っていました。今なら「原稿用紙20枚以内、1週間以内に書いてください」「はい」って感じなんですけれどね(笑)。

――国語の授業自体は好きでしたか。

河﨑:好きでも嫌いでもありませんでしたが、国語の教科書の、特に物語を読むのが好きでした。4月の始業式で教科書をもらうと、やはり帰りのバスの中で読んで。で、気持ち悪くなっていました(笑)。

――本を読むこと以外に、何か楽しみはありましたか。北海道出身というと必ず「冬はスキーですか」って訊かれると思いますが。

河﨑:あはは。それがですね、道東はスケート圏なんですよ。釧路や根室はそれほど雪が降らないのと、土地が平坦だということがありまして、冬の体育の授業はスケートでした。校庭にPTAのお父さんお母さんが夜な夜な水を撒いて400メートルリンクを作ってくれました。うちは小中とスピードスケートだったんですけれど、地域によってはアイスホッケーなんかもやっていますね。私は兄や姉からのおさがりのスケート靴を使っていて、それが防寒用の内張りのない薄い革の靴で、30分も滑っていると足の指が凍って痛くて。運動神経もよくなかったから嫌でしたね......愚痴を言ってすみません(笑)。で、スキーはボーゲンしかできません。

――そうなんですね。ちなみにおうちが牧場ということで、身近に動物がいる暮らしだったわけですよね。

河﨑:そうですね。犬、猫、牛...。馬がいた時期もありました。世話をしながら、遊びで構いながら。

――大きな書店に行く機会はあまりなかったですか。

河﨑:そうなんです。本が無制限に近い状態の本屋に行くということが皆無なので、自分で見つけ出すことができなかったんですよね。中学生の時に、先生が好きだったので学級文庫に漫画の『三国志』が全巻揃っていたんです。自分も読んでみたいと思ったんですけれど、三国志オタクみたいな同級生の男子がいて、「お前に『三国志』はまだ早い!」とか言われて。なんだそれって思いました。話をしようと思ってもオタク同士で『三国志』で盛り上がって話に入れないから、「たぶん自分と縁がないんだろうな」と思っていました。なんとなく、いまだに『三国志』に苦手意識があるのはそのせいでしょうか。でも、改めて読んでみたいんですけれどね。

――『三国志』が全巻揃っているなんて、充実した学級文庫ですね。

河﨑:それ以外はなかったと思います。どういう事情が分からないんですが、中学校は図書室の蔵書も異様に少なかったんです。正統派の文学系の全集でもない、よく分からなくて古くて触るのもちょっと躊躇するような全集とかしかなくて。だから生徒も寄り集まらないし、図書室に行くと「なにお前、図書室なんか行ってるの」という雰囲気がありました。だから中学校の図書室は近寄りがたかったですね。

» その3「毎日書店に通った高校・大学時代」へ