作家の読書道 第223回:中山七里さん
今年作家デビュー10周年を迎えた中山七里さん。話題作を次々と世に送り出すエンターテインナーの読書遍歴とは? 大変な読書量のその一部をご紹介するとともに、10代の頃に創作を始めたもののその後20年間書かなかった理由やデビューの経緯などのお話も。とにかく、その記憶力の良さと生活&執筆スタイルにも驚かされます。
その5「1日1冊、1本、25枚」 (5/5)
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- 『水は海に向かって流れる(1) (週刊少年マガジンコミックス)』
- 田島列島
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――普段、どんな1日を過ごされているんですか。
中山:1冊読む、1本映画を観る、25枚の原稿を書く。で、13人分のTwitterをチェックする。終わり。13人というのは、同業者がTwitterをやっているので、そういうのを一応チェックするんです。
――運動とか、健康のためにやっていることはありますか。
中山:夜中の3時くらいになるとほとんど車の往来がなくなるので、道路のど真ん中で50m走とかやってますね。調子がいい時は3本くらい。はじめの頃はよく警官から呼び止められましたけど。いまだに足だけは速くて、編集者たちと書店周りする時もみんなついてきてくれないんです。書店周りはもう400回くらい行っているのかな、みなさんよく言うのは、僕がトイレに行っているのを見た人がいない、と。時間がもったいないからトイレは1日1回にしているんですよ。
――え、自分でコントロールできるんですか。水分補給はしてますか?
中山:水飲まないと脳溢血の危険性があるから、ちゃんと1日1.5リットル飲んでますよ。1日1回ですむように肉体改造したんですよ。書いている最中にいちいちトイレに行っていたら集中力が途切れるんです。僕も50歳を過ぎて集中力が途切れがちなので、せめてトイレは行くまいと思って。
――食生活は。お酒は飲まれるんでしたっけ。
中山:今は家内が一緒にいるので1日3食食べますけれど、家内が何かの用事で岐阜に戻ったりした時は、気づいた時に食べる生活です。なるべくお米をひかえて肉を食べます。お酒は、飲みながら書いてます。僕、アルコールを飲むと眠くならないんですよ。だから、眠気覚ましに飲んでます。黒ビールとワインを。
――中山さんの脳と臓器がつくづく謎です。スランプになったことはありますか?
中山:僕がスランプって言うのはおこがましいですよ。スランプっていうのは、もっともっと才能があって、もっともっと量産している作家が書けなくなるのをスランプって言うんです。僕なんかが言うことじゃないです。
――1日1冊本を読まれるということで、読む本は書店に行って選んでいるのでしょうか。
中山:しょっちゅう書店巡りをしています。文芸はここ、図鑑はここ、コミックはここ、と書店が決まっているんです。
――ああ、コミックもお読みになるんですね。
中山:それこそ『鬼滅の刃』も読みますし、BLもTLも読みますし。コミックは最近ですと、田島列島さんの『水は海に向かって流れる』、このあいだ3巻が出ましたね。大傑作です。令和の『めぞん一刻』ですよ。極端なことを言えば、今年は『鬼滅の刃』と『水は海に向かって流れる』のふたつを読めばもう何も言うことはないです。片方がメジャーな傑作で、片方が、言っちゃ悪いけれどマイナーだけど大傑作です。これはもっと、大々的に売るべきですよ。
――ミステリーで最近面白かったものは。
中山:アンソニー・ホロヴィッツさん。前からその匂いはしていましたが、前作の『メインテーマは殺人』を読んで、はっきりと分かりました。あの人は、現代のシャーロック・ホームズを作ろうとしていますね。今回も完全なホームズとワトソンですよ。そうやって読むと、いろいろ分かります。日本のものも読んでいますし密かに思っている人がいますけれど、現役の私が言うと支障があるのでやめておきます。
――ちなみに、映画で最近面白かったものは。
中山:「テネット」ですね。僕は1回観て分かりました。あれは原理原則を掴めば分かるんですよ。でもあんまり仕組みを考えるのではなく、新しい映像体験を楽しむんだと割り切ったほうがいいです。クリストファー・ノーランも全部理解してくれなんて思ってませんよ。すごい映画っていうのは必ず何かを発明する。たぶんノーランさんも、辻褄をあわせるとかストーリーを理解させるといったこと以前に、こういう新しいものを作るんだということに主軸を置いている。それが実験作だったとしても娯楽としてエンターテインメントとして通用するって前提のもとにやっているんですよ。
その「テネット」がですね、ワーナーだから必ず予告編で「ドクター・デスの遺産」をやってくれるんですよ(笑)。助かります。
――ああ、「ドクター・デスの遺産」は中山さんの小説の映画化ですよね。今月は御子柴シリーズの最新刊『復讐の協奏曲』も刊行されたわけですが、今回は御子柴事務所の唯一の事務員、日下部洋子が殺人事件の容疑者になりますね。
中山:このシリーズはいろんな攻め口を考えたんですよね。最初は本人のことで、次は過去にさかのぼって、実の母親を弁護して、次は御子柴の一番身近にいる日下部を弁護することになって。今、次の話を連載しているんですが、実はこれが一番きついんです。もう御子柴の身内は使えないから、こういう人間を出そうと考えました。とにかくお客さんを飽きさせない。予想を裏切って期待を裏切らない、これだけは金科玉条のように守っています。
――10周年最後の刊行予定は何になりますか。
中山:NHK出版から12月16日に『境界線』が出ます。今度映画になる『護られなかった者たちへ』の続篇です。
(了)