第225回:町田そのこさん

作家の読書道 第225回:町田そのこさん

2020年に刊行した『52ヘルツのクジラたち』が未来屋小説大賞、ブランチBOOK大賞を受賞するなど話題を集めている町田そのこさん。少女時代から小説家に憧れ、大人になってから新人賞の投稿をはじめた背景には、一人の作家への熱い思いが。その作家、氷室冴子さんや、読書遍歴についてお話をうかがっています。

その6「デビュー後の読書生活」 (6/7)

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  • 『うつくしが丘の不幸の家』
    町田 そのこ
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  • 『神さまのビオトープ (講談社タイガ)』
    凪良 ゆう
    講談社
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――デビューしてから、読書生活に変化はありましたか。

町田:そうですね。やっぱり何を読んでも勉強になるので、純粋に楽しむことがなくなったかなと思います。あと、最近はエッセイをよく手にしますね。息抜きにもなるし、純粋に楽しい。また北海道の方になりますが、北大路公子さんが大好きです。私はお酒が大好きなんですけれど、北大路さんは昼酒朝酒上等のエッセイを書かれていますよね。勝手ながらめちゃくちゃ親近感を覚えています(笑)。でも、お酒を飲んでぐうたらされてるかと思ったら急にいきなり文学的な一文をひゅーんと放り込んだりするので、背筋がすっと伸びる。油断させないぞ、というエッセイを読むのが好きですね。

――町田さんはお酒は強いんですか。何が好きなんでしょうか。

町田:強くはないんですけれど、飲むのは大好きです。もっぱらビールです。たまにワインを飲みますが、冷蔵庫に1本だけ冷やして、「この1本だけにするぞ」と思っていたら、気づいたら2本目を常温でガブガブやってたりして。それだと次の日仕事にならないので、最近はビールオンリーでいこうかなって思っています。お酒つながりのエッセイだと、内田百閒さんもすごく好きですね。百閒さんのお酒の飲み方とか生き方とか、すごく可愛いんですよね。「鳥は好きで飼うけど、すぐに死ぬ」とか「とりあえず電車に乗りたいからお金を借りに行く」とか自由と偏屈が同居していて、なんだこの人はと笑ってしまう。百閒さんのエッセイを読みながらビールを飲むと、すごく美味しいですよ。『御馳走帖』という食べ物についてずっと蘊蓄を語っているエッセイがあって、それを読みながら一杯やるのがおすすめです。いいお酒が飲めます。

――今、一日のサイクルってどんな感じですか。

町田:普段は、朝起きて家族を送り出した後に家事をします。その家事の合間、キッチンの横のダイニングテーブルにパソコンを置いて書きかけの原稿をずっと開いておいて、思いついたらそこに行って書きます。それを夕方の6時まで繰り返します。書くのは6時までって決めています。そこからは夕飯の支度もありますし、お酒も飲まなきゃいけないし(笑)。

――さきほどプロットを作らないということでしたが、創作ノートはないということですか。

町田:一応はあります。家事をしながらなので、忘れないようにちょろちょろっとメモしておくこともありますし、このシーンはどうしても書きたいというのがあったら、それを書いておいたりとか。その程度のことはします。頭の中で整理しきれない、こぼれそうな部分だけは書き留めておくので、パソコンの横には常にノートとペンを置いてますね。あとはだいたい脳内で組み立てています。

――ところで、おうかがいしているとミステリーはあまり読まれてないんですね。

町田:嫌いではないんですけれど、私が学生の頃に「作家から読者への挑戦」というページがあるのが流行っていたんですが、残念なことに「犯人もトリックも全然分からない......」って毎回思っちゃって。しかももっと残念なのが、解答編を読んでも尚、理解できなかったんです。だからちょっと苦手意識ができてしまったんです。全く読まないわけではないんですが。

――じゃあ、東京創元社から執筆依頼があった時は驚かれたんじゃないですか。『うつくしが丘の不幸の家』を刊行されていますよね。

町田:依頼をいただけたときはびっくりしました。「私、ミステリーは無理なんですけれど」と言ったら「ミステリーじゃなくていいです」と返されて、「いや、でも」って。本当によくお声がけしてくださったなって思います。あれで凪良ゆうさんとのご縁もできたんです。担当者さんが同じで、「町田さんの前に凪良さんという方の本を担当しました」と聞いていたので、どんな方だろうと思って『流浪の月』を読んで「ひゃー、すごい」ってなったんですよ。そこから『神様のビオトープ』を読んで「凪良さん、すごい、すごい」って。『滅びの前のシャングリラ』も本当に腰ぬかすかと思いました。

――『52ヘルツのクジラたち』の新しい帯に凪良さんからの推薦文がありますね。

町田:そうなんです、本当に嬉しくて。私が『滅びの前のシャングリラ』がすごいって言っていたら、「『52ヘルツのクジラたち』と通ずる部分もあるかと」というような内容をツイッターで仰ってくださったんです。思わず画面をスクショして、家族に「これ見て」って言いました(笑)。すごく嬉しかったです。その日は浴びるほどビールを飲みました。私のこのたぎる思いを、いつどうやって凪良さんにお伝えしようかって思っています。

――直接お会いしたことはあるんですか。

町田:ないんです。コロナ禍の最中ですし、なかなか人にお会いできないですよね。桜木紫乃さんの『家族じまい』が中央公論文芸賞を受賞された時も、授賞式に行けば桜木さんにお会いできるんじゃないかと思ったんですけれど、授賞式がないというお知らせがきて残念でした。凪良さんと桜木さんは、いつかお会いして「好きです」って言いたいです。こうやって「会いたい」って言い続けていればいつか向こうも「仕方ないな」って会ってくださるんじゃないかと思っていて。本当に好きな人には、会える時に「会いたい」って言わないとだめだってことを、身を持って知っているので、これからもしつこく言っていきます。

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    中央公論新社
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  • 『52ヘルツのクジラたち (単行本)』
    町田 そのこ
    中央公論新社
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