オリジナル文庫大賞

2023年度北上次郎オリジナル文庫大賞は『あしたの名医』と『波の鼓動と風の歌』のダブル受賞だ!

2012年に始まった「オリジナル文庫大賞」は、オリジナル文庫にもっとスポットを当てたい! とりわけ、まだ陽の当たっていない書き手を推していこう! という故北上次郎氏の熱い想いからスタートした。2017年から「WEB本の雑誌」に場を移して続けてきたこの賞は、今年から「北上次郎オリジナル文庫大賞」と名称を変え、氏の志を受け継いだ編集者8名、評論家3名が選考委員となって、大賞を決めていきます。司会進行役は、北上次郎氏に代わり、本の雑誌発行人の浜本茂が務めます。
  • あしたの名医:伊豆中周産期センター (新潮文庫 ふ 61-1)
  • 『あしたの名医:伊豆中周産期センター (新潮文庫 ふ 61-1)』
    藤ノ木 優
    新潮社
    880円(税込)
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  • 波の鼓動と風の歌 (集英社文庫)
  • 『波の鼓動と風の歌 (集英社文庫)』
    佐藤 さくら
    集英社
    979円(税込)
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  • 小戸森さんちはこの坂道の上 (角川文庫)
  • 『小戸森さんちはこの坂道の上 (角川文庫)』
    櫻 いいよ,けーしん
    KADOKAWA
    770円(税込)
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  • シュレーディンガーの少女 (創元SF文庫)
  • 『シュレーディンガーの少女 (創元SF文庫)』
    松崎 有理
    東京創元社
    946円(税込)
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  • 世界でいちばん透きとおった物語 (新潮文庫 す 31-2)
  • 『世界でいちばん透きとおった物語 (新潮文庫 す 31-2)』
    杉井 光
    新潮社
    737円(税込)
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候補作一覧

『あしたの名医 伊豆中周産期センター』藤ノ木優(新潮文庫)
『小戸森さんちはこの坂道の上』櫻いいよ(角川文庫)
『とわの文様』永井紗耶子(角川文庫)
『波の鼓動と風の歌』佐藤さくら(集英社文庫)
『シュレーディンガーの少女』松崎有理(創元SF文庫)
『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光(新潮文庫nex)


*以上、6作が候補作となりましたが、予備選考の段階で、強烈な超能力を持つ少女の呪いによって、地球全土が危機に瀕しているという設定の四つの連作中編からなる、谷口裕貴『アナベル・アノマリー』(徳間文庫)に関して、「とにかくアイデア満載で濃厚」「見たことがない悪夢のような光景が次々に展開する圧倒的な読書体験でした!」「『シュレーディンガー』を推すか、こちらを推すかで悩みに悩んだ」という声があがったことを付記しておきます。


●さぁ、今年も勝手に大賞を決めていくぞ!

浜本 それでは、『あしたの名医』から話していきましょうか。
編B  僕、何年か前にオリジナル文庫=町中華論、をぶちあげたじゃないですか。
浜本 2019年、吉上亮『泥の銃弾』が大賞を受賞した年ですね。オリジナル文庫大賞を選ぶのは、町中華の名店を選ぶことである、と。
編B  そうです。それで、今年はその、町中華論を意識して各候補作を採点したんですが、『あしたの名医』は、まさに町中華オブ町中華なんですよ。
編A あー、わかります。
編B リアリティラインは、意図的に若干下げているとは思うし、ちょっとご都合主義的な部分もあるとは思うんですが、いい話であることは否めない。文庫オリジナルを手に取って読みたい、という人のニーズにぴったり合わせてきている。ちゃんと町中華の味を出している。僕は今年は、この『あしたの名医』を基準点として採点しました。
編C 登場人物たちのキャラや地方医療という舞台設定、物語の中で語られるグルメ情報、と町中華でいえば、ラーチャー餃子(ラーメン炒飯餃子)みたいな一冊。
編D 私も面白く読みました。満点をつけてもよかったですが、この本の担当編集者が、去年の大賞受賞作の編集者と同じだと知って、満点は控えました。
一同 (笑)
編E    医療小説といえば、去年、候補に上がったけど、大賞受賞には至らなかった医療小説があったじゃないですか。
浜本 中山祐次郎『俺たちは神じゃない』(新潮文庫)ですね。
編E はい。手術場面はいいのだけど、間を繋ぐ物語が弱かったんです。それで言うと『あしたの名医』は、間を繋ぐ物語もしっかりしていて、主人公の医師の成長物語にもなっている。伊豆グルメも描かれているし、みんなが満足して読めるという点で、町中華論にも当てはまる、と私も思いました。
評A   私も『あしたの名医』は文句なく面白く読めました。地方医療の過酷な実状や、その土地のグルメまで織り込まれていて、読者を楽しませてくれる。ただ、もう一歩というかもう一味というか、大きな感動とまではいかなかったかな。
評B  僕は、『あしたの名医』は、今年の医療小説のベストだと思います。単行本を含めても、この作品がベスト。これを上回る医療小説は、今年は出ていません!(きっぱり)
一同 おぉっ!!
編F 僕は、主人公の性格の弱さにちょっとイラっとしました(笑)。でも、医師たちの心の内や大学病院内の権力構造の描写は面白かったし、ある意味、エンタメのお手本だと思います。優等生的すぎる作品なので、大賞にはどうかな、という気はしますが。
編G  私は、医療+グルメ、ってなかなか新しいんじゃないかと思いました。医局内の医師の造型も、類型すれすれではあるけれど、バラエティに富んでいる。気弱な主人公が振り回されるのも、私は面白かったです。
編H  僕の今年の採点は、オリジナル文庫=ロールケーキ論を基準にしました。
評C  町中華論に加えてロールケーキ論が!(笑)
編H  オリジナル文庫は、ハレの日に食べるデコレーションケーキのような完成されたものでなくていい。普段、気軽に食べられるロールケーキでいいんです。加えて読者を選ばない、ということ。ある偏った読書傾向の人にはめちゃくちゃハマるかもしれない、というのではなくて、老若男女、全部の読者を対象にして、なおかつ面白いと思わせられるかどうか。そのためには、個性的な味だったり濃い味だったりするのではなく、薄味でいい。その意味で、『あしたの名医』は美味しいロールケーキなんですよ。これ、ハードカバーでも(商売的には)戦えると思うんですが、逆にいうとそこがちょっと鼻につく。
一同 (笑)
編H 鼻にはつくんですが、完成度は今回の候補作の中では一番だと思います。
評C   私はラスト二章のライブ感、緊迫感を評価しました。読んでいるこっちまで、どうか無事に!と同調してしまう。筆力では群を抜いていると思います。ただ、さっきも出ましたが、昨年の大賞受賞本と編集者が同じという点で、なんかちょっとヤラれた感があって悔しいので(笑)、採点は日和りました。

浜本 次にいきましょう。『小戸森さんちはこの坂道の上』はどうですか?
編A いわゆる擬似家族を肯定的に、そして前向きに描いているところが良かった。この作者はこれまでティーン向けの作品を描いてきた方なんですが、今年、大人向けの作品を発表し出したんです。その中で、これが一番出来がいいと思いました。
編D  ライトなお話で、いい話だな〜と素直に思いました。
編E  他の候補作と比べると、若干の弱さは否めないのですが、よくある擬似家族ものにひと捻り加えているところに、好感が持てました。
評A  よく描けているとは思うんだけど、私はもう一味欲しかったですね。
評B  主人公が、あらゆることに内向きという設定なので仕方がないと言えば仕方がないのだけど、あまりにも主人公にとって都合が良い人間関係、というのが読んでいてダメでした。あの人が好きなのに〜とベッドで足をばたばたさせる、みたいな描写は、一般向けの文庫では苦しいんじゃないかな、と思います。
編F  主人公の、他人と無理に交わろうとしないところとか、食べ物に興味を持てないとかは良かったです。ただ、場面、場面は好意的に覚えているんだけど、物語全体で訴えてくるものには弱いかな、と。
編G  私は、最初は、リアルなのは主人公だけで、他の登場人物たちはマンガのキャラのように感じて、ちょっと辟易していたんですが、途中から、これって「おひとり様女子の癒し小説」では? と気がついてからは、割り切って楽しく読みました。同窓会での一の矢、母親の婚約者に啖呵をきるところでの二の矢、とカタルシスをちゃんと作っているのは評価したい。
編H 僕は意外に面白く読めたんですが、若干薄味にすぎるかなぁ。
評C 基本は薄味でいいんだけど、あんまり薄味になってしまうと、物語の妙味に欠けるよね。

浜本 『とわの文様』はどうですか? 永井さんは今年度下半期の直木賞受賞作家でもあります。
編B   これ、最後がちょっと妥協して終わるじゃないですか。「悪」はそのままにしておく、みたいな。その意味では町中華だと思うんですよ。「悪」を退治してしまうと、この枚数では収まらないだろうし、そこまで踏み込まない塩梅の良さ、が町中華になっている。シリーズになりそうな余韻を残しているのもいい。
編C  永井さん、直木賞を受賞されたので、正直、候補に残すのはどうかな、という気持もあったんですが、今年出たオリジナル文庫の時代小説としては、やはり安定の巧さでした。こういう町中華ふうなものも書けるんだ、と。
編D  明らかに上手だなぁ〜、と思いました(笑)。ただ、シリーズもの第一作感がとても強かったこともあって、そこで減点しました。
編E   直木賞作家に対して言うことではないんですが、文章が巧いですよね。キレも良くて、声に出して読みたいくらい。ただ、私も、シリーズものの第一巻、という感じが強かったです。物語自体は、少し弱めだし。
編F   安心して読める時代小説なんだけど、正直、直木賞作家になっちゃったし、オリジナル文庫大賞は、別の候補作でいいかな、と個人的には思います。
編G 永井さんは、オリジナル文庫もたくさん書かれていて花開いた方なので、応援したい気持ちはあるし、安定の巧さなんだけど、大賞じゃなくても、という感じは私もします。
編H 僕は、ちょっと細かいところが気になってしまって......
浜本 具体的には?
編H おこそ頭巾って防寒用なのに、初夏から夏の季節に出てくるんです。読んでいて、そこでつまづいてしまったので、僕は高い点をつけられなかった。
評C なるほど......。私は気づかなかったけど、でもまぁ、私もみんなと同様、大賞に選ばなくてもいいかな、と思います。

浜本 次、『波の鼓動と風の歌』はどうでしょう?
編B 僕は基本的にファンタジーと恋愛ものが苦手なんですが、これは読めたんですよ。その点で一点加点しました。世界設定もスムーズに作っているし、その世界に物語をちゃんと落とし込んでいる。いわゆる町中華ではないけれど、オリジナル文庫が、ライト文芸やラノベというフォーマットとの相性が良いことを考ると、これはこれで文庫の有り様として正しいな、と思います。
編C 同じく、ファンタジーは苦手なんですが、作者がやろうとしていることはすごくよくわかるし、生きづらさとか、自分は何のために生きているのか、というテーマは評価できる。ただ、世界観が今ひとつ狭いんですよね。ご都合的なところから離れていない。
編D 私はファンタジーが好きなので、ファンタジーを描く人は応援したいという想いからの採点です。
編E 私もファンタジーが好きで、これは柄(がら)が大きい作品だと思いました。しかも、ヒロインの設定を〝まじりもの〟にした、というところがすごく良かったです。守ってもらうヒロインではなくて、異形のものになることによって、(誰かを)守ることができるヒロインになった、というあたりも、応援ポイントでした。
評A 私は、全体的にプロローグという印象が強かったです。ヒロインとともに、異界に飛ばされたもう一人の女子高生のこととか、ストーリーとして未消化な感じがしました。ただ、これから二巻、三巻と続いていくうちに面白くなりそう、という期待はあります。
評B これ、異世界転生もののように見せておいて、実はもうちょっと荒くれた物語に落とし込んでいる。その野蛮な感じがいいと思いました。この作者はすごく将来性のある人だと思います。ただ、後半、ちょっとぐだぐだ感が出ちゃうのは惜しい。
編F 僕は、今回の候補作の中では一番面白く読みました。設定、キャラクター造型、話運び、等々、どの点においてもまだかなり荒削りではあるけれど、この書き手は伸びそうという予感があります。
編G 私は、「ハリー・ポッター」的な、ある日、異世界に行ったら、俺、強ぇぇぇぇぇ! みたいな無双系のファンタジーは好みではないんですが、この作品は好きでした。ヒロインが艱難辛苦に襲われて、そこから成長し、他人を認めて、自分のことも受け入れる、というのが良かった。
編H 僕は、自分が面白く読めたということもありますが、北上さんが読んだら好きそうな物語だな、と思ったんです。それで加点しています。
編E あぁ、北上さんだったら推してたかも。
一同 うん、うん(頷く)
編H 粗さはあるし、物語の強弱の付け方もまだまだですが、この作者の将来に賭けたい、この作者には未来がある、と思わせるものを持っている。
評C 私は、後半が少し弱いと思いました。ちょっとダレる。異世界で〝まじりもの〟になってしまう、というのはいいんだけど、そのことをもっと物語全体に活かして欲しかった。

浜本 『シュレーディンガーの少女』にいきましょう。
編A まず、この作者ならではの物語の切り取り方をしている点が良かったです。短編集の宿命として、作品の質のばらつきや、個々の短編で好みが分かれるということはあると思うんですが、今回の候補作の中では、再読欲が一番高かった。特に「六十五歳デス」が、家族を描いた物語としても素晴らしいと思いました。
評C 「六十五歳デス」いいですよね。私は、老女に対する既成概念を覆すような作品が好きなんです。ク・ビョンモ『破果』の爪角や、打海(文三)さんの「アーバン・リサーチ」シリーズに出てくるウネ子に通じる主人公が良かった。
編E 私も面白く読んだんですが、書き割りっぽいなぁ、と思うところも目につきました。
評A 「ディストピア×ガール」という設定はいいのだけど、その設定を上回る物語の面白さに欠ける気がしました。
評B 「六十五歳デス」と表題作の、切ない感じがいいと思いました。現代における社会の絶望感みたいなものを、こういうテーマで際立てて描いたことを評価しました。今、SF界では2021年に「異常論文」が出て以来、その手のものが続々出ているんですが、そういうSF界をリポートする感じも良かった。
編F 非難ではないのですが、リアリティ低めのSF短編集で、最初はどう読めばいいのか戸惑いました。途中からは慣れましたけど。ただ、この作者はオチの付け方があまり巧くないな、と。物語の前半は面白いんですが、ラストに向けて盛り上がる感じがあんまりなくて、エンディングも、やや逃げているように感じました。
編G 申し訳ないんですが、私にはちょっと難しかった。面白いと思う作品もあったんですが、トータルでどう評価していいのか悩みました。
編H 面白い工夫をしているとは思うし、「六十五歳デス」は良かったんですが、僕はそもそもが理系ものが苦手なので、読み進めていくと、「またパクチーか!」「また甜麺醤か!」みたいな苦手な味が連続した感じでした。
評C 私の点数は、「六十五歳デス」一編に付けたものです。あの一編は、私のストライクゾーンでした。

浜本 それでは、最後、『世界でいちばん透きとおった物語』。ある意味、候補作の中では一番の話題作です。
編A 僕は、〝仕掛け〟をもっと徹底して欲しかったです。徹底できなかった理由があるとは思いますが、あっ!と思った時に、自分の中にすとんと落ちてこなかった。
浜本 あぁ、徹底して欲しかった、というのは確かにありますね。
編A あと、オリジナル文庫大賞は、まだ陽の当たっていない作者を取り上げていこう、という北上さんの趣旨から言えば、すでに何十万部と売れているこの作品は、ここで推さなくてもいいかな、と。
編C めちゃくちゃ売れてますよ。うちの息子から勧められたくらいなので(笑)、相当だと思います。
編B これは、褒め言葉なんですが、こういう馬鹿馬鹿しいことを一所懸命やる、という姿勢、僕は好きなんですよ。それだけで努力賞をあげたい(笑)。物語の内容がミステリとしてもっとよくできていれば、もう少し評価を上げたかな。
編C 僕も、努力賞に一票! 
編D 努力賞であり、技能賞でもありますよね。
編E 私も、よく頑張ったね! と思いました(笑)
評A 私は〝仕掛け〟には驚かなかったんですが、設定はいいとしても、その設定を上回る物語の面白さに欠けていたと思いました。
編H 僕は〝仕掛け〟に気がつかなかったので、気がついた時、えぇ??っ、このこと?と驚きはしましたが、ちょっといや〜な感じもしました。
一同 (爆笑)
編F 単行本でやるようなネタではないので、オリジナル文庫らしいといえば言えるんですが......。
編G 私は、よく頑張りましたで賞、をあげたいですね。一世一代の渾身のトリックだと思いますが、肝心の物語の部分がありきたりに感じました。
評C 私も途中から〝仕掛け〟に気がついた派ですが、でもそこにいくまでの展開に無理があると感じました。その無理無理感があるので、読み終わった時に思ったのは、〝仕掛け〟に関しては、「こんな回りくどいことすんなや!」でした。
一同 (笑)

オリジナル文庫大賞表20231.jpg 個々の採点と集計の結果は、表の通り。この時点でもっとも点数が低かった『世界でいちばん透きとおった物語』と、その次に点数が低かった『小戸森さんちはこの坂道の上』は、積極的に推す意見がなかったため落選に。

浜本 残っているのは、『あしたの名医』、『とわの文様』、『波の鼓動と風の歌』、『シュレーディンガーの少女』ですね。この四作で協議していきましょう。
評A 『とわの文様』は 外してもいいんじゃないでしょうか。作者が直木賞を受賞したことだし。
編C それなら、最初から候補にするなという話ではありますが。
浜本 来年の候補作選出の時に、そのあたりのことは詰めることにしましょう。とりあえず、『とわの文様』は落選ということでどうでしょうか。
一同 それでいいです。
浜本 それでは、『あしたの名医』、『波の鼓動と風の歌』、『シュレーディンガーの少女』の三作について、一旦ここで、各自の推しを挙手して採決を取るのはどうですか?
一同 賛成!

●挙手の結果は『あしたの名医』、『波の鼓動と風の歌』、『シュレーディンガーの少女』の順となる。

浜本 『シュレーディンガーの少女』を推している編Aさんの強い応援演説がないと、『シュレーディンガーの少女』は、ここで敗退となってしまいますが......
編A 確かに、読者を選ぶ作品ではあるので、落選でいいです。
評C あっさり引いたね(笑)。
浜本 それでは残りの2冊ですが、決選投票にするか、この投票数で決めるか。この投票数の結果では、『あしたの名医』が大賞になりますが。
編A 私は『あしたの名医』にはあえて言及しなかったんですが、それは一箇所だけめちゃくちゃ気になったところがあるからなんです。
浜本 どういうところが?
編A 前半は確かに情報量もあっていいな、と思うんですが、医師たちが行きつけにしている居酒屋の娘・伊織が妊娠しているじゃないですか。その段階で、彼女に何かが起きるというフラグが立っていますよね。
評B あぁ、確かに。
編A 個人的な意見なんですが、最終章は伊織ではなく、他の人物で(ドラマを)作ったほうが圧倒的に良かったのではと思いました。伊織でドラマを作るのなら、二巻めか三巻めでしょう。
評C なるほど。説得力あるなぁ。
編A これを一巻でやってしまうのは、物語の都合でしかない、と思ったんです。妊娠と出産という一大事を軽く扱っている気がしました。
編B 軽く扱っているとは僕は思いませんが、確かに物語の都合で、というのには納得です。
編A 感情移入しやすい伏線を作っているんですよね。物語を作る〝手つき〟として、作りすぎな感じが否めなくて、そこが気になってしまう。
編C あぁ、確かに、感情移入しやすい人物に負荷をかけた、というのはその通り。
編E   それまでの流れがハッピーできているから、絶対にどこかで負荷をかけてくるというのは、読んでいてわかるんですが。
編B 町中華論でいくと、最終章だけ、ヘビーな味になっちゃっているんですよね。
編D あの最終章だけ、色というか、味付けが濃い。
評A   とはいえ、これだけ書けていることに関しては、評価したいです。
評C あの〜、これは内容とは関係ないのですが、このイラストの表紙、今ひとつじゃないですか? なんか、ノンフィクションのようにも思えてしまう。
編F あぁ、確かに。「伊豆中周産期センター」という副題がついているから、余計にそういう印象が強まるかもしれませんね。
編H イラストが、90年代っぽいんですよね。
編G 編集者のセンスかも(笑)。
評B いっそのこと、今年の大賞は『あしたの名医』と『波の鼓動と風の歌』のダブル、というのもアリな気はします。
編D 過去にもダブル受賞の年がありましたしね。
浜本 2017年がダブル受賞でした。
編H 『あしたの名医』の完成度、『波の鼓動と風の歌』の将来性、ともに評価したいので、ダブル受賞に賛成です。
浜本 みなさん、どうでしょうか。
一同 異議なし!
浜本 それでは、2023年度北上次郎文庫オリジナル大賞は、藤ノ木優『あしたの名医』と佐藤さくら『波の鼓動と風の歌』のダブル受賞に決定です。みなさん、お疲れさまでした。

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