『『能町みね子のときめきサッカーうどんサポーター』、略して能サポ』能町みね子

●今回の書評担当者●啓文社 児玉憲宗

  • 『能町みね子のときめきサッカーうどんサポーター』、略して 能サポ (講談社文庫)
  • 『『能町みね子のときめきサッカーうどんサポーター』、略して 能サポ (講談社文庫)』
    能町 みね子
    講談社
    637円(税込)
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    honto

 漫画家でエッセイストの能町みね子さんは、大相撲にはとてもくわしいが、サッカーをまったく知らない。そもそもサッカーにはまったく興味がなかった。あるサッカームックで、そんな能町みね子さんによるサッカー観戦コラムが企画された。本書はそんな前代未聞のコラムをまとめた一冊である。

 サッカーど素人のスタジアム観戦。試合前に花束を渡す役の子供がこけて、試合中、担架隊がこけて、試合後、カメラマンが後ろ向きでこけた偶然に「ピッチには魔物がいる」と、はしゃぐ。試合はそっちのけである。決勝ゴールを決めた選手の晴れ姿よりも、試合後インタビューでかなり緊張して噛みまくったことの方に「今日は良いものを観た」という満足感を得ている。

 そんな能町みね子さんさえ、夢中にさせてしまった偉大なるチームがカマタマーレ讃岐である。「香川県→うどん→釜玉うどん→カマタマーレ」というユニークでわかりやすいチーム名がまず気にいったようだ。

 チームのエンブレムにはど真ん中にうどんがあしらわれ、さらにその真ん中にある黄色は卵とボールを表している。他チームには見られない徹底した「うどん」推しに、能町さんはハートと胃袋を鷲づかみされたのだ。スタジアムに向かう途中に見られるたくさんのうどんの名店に能町さんはすっかり魅了される。そして、いつしか香川県で観戦する時は2軒以上のうどん屋に行くことが義務化された。

 うどんサッカーうどん、うどんサッカーうどんうどんうどん、または、うどんうどんサッカー。多彩なバリエーションは、カマタマーレ讃岐が目指すリズミカルなパス回しに似ている。

 てっぺんにどんぶりが乗り、その上に「うどん」という文字が飾られた「うどんタクシー」は、うどんの筆記試験、実地試験、そして手打ち試験を突破しないとドライバーになれない。能町さんはこうしたエピソードも大好物で、コラムで多く紹介されている。

 こうして、コラムは、回を追うごとに「サッカー観戦記」から「うどん名店レポート」へ変貌していくのである。

 香川県のうどん店はどこもお客で賑わっている。香川県民のうどんの食べ方は実に多彩で、主食にもなれば、副食にもなれる。3時のおやつ、試験勉強の夜食、酒のつまみなど、ここ一番重要な場面で起用されるのはやっぱりうどんだ。うどんこそ、フード界最強のユーティリティプレイヤーなのである。

 2013年、掲載ムックの休刊により3年間続いたコラムは終了となった。能町みね子さんの生活からサッカーは消え、かつての大相撲好きの漫画家に戻った。しかし、カマタマーレ讃岐の動向だけは今も気になるらしい。そして、現在もばりばりの「うどん党」だ。

 カマタマーレ讃岐は、チーム力と観客動員数を着実に伸ばし、2014年、見事、J2昇格を果たした。このコラムがJ2昇格のサポートになったと言い切る自信は私にはない。しかし、3年にわたり、うどんとカマタマーレ讃岐を愛し続けたコラムであることに間違いはない。

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啓文社 児玉憲宗
啓文社 児玉憲宗
1961年広島県尾道市生まれ。高校を卒業するまで読書とはまったく縁のない生活を送っていましたが、大学に入って本の愉しみを知り、卒業後、地元尾道に拠点を置く書店チェーン啓文社に就職しました。(書店勤務は30年を超えました)。今のメインの職場は売場ではありませんが、自称、日本で唯一人の車椅子書店員。本は読むもの、売るものが信条ですが、魔がさして『尾道坂道書店事件簿』(本の雑誌社)というエッセイを出しています。広島本大賞実行委員。