『断絶への航海』ジェイムズ・P・ホーガン

●今回の書評担当者●マルサン書店仲見世店 小川誠一

  • 断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)
  • 『断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)』
    ジェイムズ・P. ホーガン
    早川書房
    1,145円(税込)
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 3回目の登場という事で気持ちがゆるんでますね。杉江さんからの叱責がないので、どんどん好きなことを書いてもいいのでは? と自己解釈しております。
 静岡県沼津市マルサン書店小川と申します。

 小学2先生の時、とても厳しい女の先生が担任でした。よく怒られてましたw
 ただ、この先生のお陰で本が好きになりました。
 今ではもう、それがどんなきっかけだったかは謎なんです。ゼンゼン思い出せない。ただその先生が何かしたんでしょうね。それが私になにかの変化を及ぼした。まさに......魔法です。
 この魔法を今でも覚えていて、ここで披露することが出来たら。
 もう日本中の子供たち全員、明日から今の10倍くらい(根拠なし)本を読み始めますよ。
 覚えていなくて残念です。

 という訳で、子供のころから本の好きな人は自分と同じく「魔法をかけられた仲間」のような感情を持ち続けております。レジに居て、そこに本をお持ちになるお客さんがいる。しかもお持ちになったその本、自分が以前読んでスゴク面白かった本だった時の感動! わかりますよね?!

 ああ、ここにも自分の仲間、同志がいた! みたいな気持ち。

 そんなお客さんについつい話しかけちゃうときもあるのですが、なぜかニッコリして会話が始まるときが多い。書店人の多くは、本屋にいるだけで幸せだと思います。

 さてここで幸せについて書かれたSF小説があります。

 あらすじは......

 第三次世界大戦の傷もようやく癒えた2040年、アルファ・ケンタウリから通信が届いた。大戦直前に出発した移民船〈クヮン・イン〉が植民に適した惑星を発見、豊富な資源を利用して理想郷建設に着手したというのだ。この朗報をうけ〈メイフラワー二世〉が建造され、惑星ケイロンめざして旅立った。だが彼らを待っていたのは、地球とはあまりにも異質な社会だった...現代ハードSFの旗手がはなつ壮大なスペース・ドラマ。

 表紙のイラストが気に入ったので手に取りました。 デカァーイ宇宙船がグォン・グォンとノイズを出して宇宙空間を航行しているだろうイラストはそれだけでカッコいい。

 そして内容はとても深く、哲学的だった。この惑星ケイロンでは、ロボットが労働すべてを担っているので事実上人間は働くことから解放され、自身の好きな事だけをしていればいい。ただ、自分の才能を活かし、他人の為に何か奉仕をしなければならないルールがあるだけなのだ。音楽が上手い人は楽器を弾いてみんなを楽しませ、狩りが得意な人は森へ獲物を探しに行く。自分の才能を生かして好きな仕事をし、他人の為に尽くす。まさに人としての幸福がその惑星に存在していた。しかもここでは、ロボットたちも自分の仕事を楽しみ、また誇りにしている。ここでホームセンターでの一場面が思い出される。このお店で勤務する管理ロボットが自身の品ぞろえに対して自慢する場面があるのだ。ロボットでさえも生きる楽しみを知っている。これってスゴイ。

 だが、そんなユートピアに現れたのは、後から移民してきた古い慣習や偏見・差別に囚われた人間たち。しかし後から訪れた移民たちの中にも良識のある人たちはいた。彼らはこの惑星ケイロンの存在意義を真剣に考え始め、この世界に適応しようとする。その過程を読み進む時、気づいた。これって人間としてイチバン大切なことが書いてるのではないのか? 先に入植した人間たちと後から来た移民たちの文化の違いを通して、いま現在世界が置かれている問題点を見事に炙り出してる。

 人はどう生きていくべきか。

 ポイントは、なぜ先住移民たちがこれほどピュアな文化を持っているか、それは・・・・・本書を読んでね。

 ホーガンは他の著書『ライフメーカーの掟』でも、人間とテクノロジーの調和、そして生きがいについて魅力的なタッチで話を進めていく。私のアヤシイ身振り手振りを交えた紹介で、今まで3名の方が購入されていきました。未読ならばあなたにもぜひご案内させていただきたいです。

 自分が楽しめる職業についている人間は幸せだ。もちろん、書店人は最高に幸せな人間だと確信している。シカゴのバーバラ書店マネージャー・コトルバさん曰く、「書店員というのは神から与えられた仕事」だそうです。たとえ給料が安くても。

 次回も原稿依頼ありますよーに。

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マルサン書店仲見世店 小川誠一
マルサン書店仲見世店 小川誠一
1968年生まれ。SF・冒険小説が大好き。最近は読むスピードが落ちているのが悩み。