『イン・ザ・ルーツ』竹内真

●今回の書評担当者●喜久屋書店宇都宮店 大牧千佳子

 ひき続き、竹内真祭りです。
 どっからひき続いているのかといいますと、2008年yc voxワカバウォーク店大熊江利子さんが紹介された『ワンダー・ドッグ』(新潮社)、そして堀江良文堂書店松戸店高坂浩一さんが紹介された『ビールボーイズ』(東京創元社)からの、竹内真祭りです。

 このコーナー3回目ってのは最多出場作家となったりしますでしょうか、おめでとうございます。

『イン・ザ・ルーツ』、形見分けのシーンからはじまります。トランペッター・サニー多々良こと多々良三四郎が、たくさんの小さな彫刻を三人の孫たちに見せ、すきなものをひとつだけ選ばせます。その小さな彫刻が根付。この物語の「鍵」です。根付のルーツを探る三兄弟の成長の物語なのです。そして、根付のルーツはいつのまにかそのまま多々良家のルーツへとつながっていきます。それは過去におきた殺人事件の謎さえも解いていきます。

 このサニー多々良のじーさんぶりがすばらしい。竹内真の小説ではしばしばこういうじーさんが出てきます。小説現代新人賞を受賞したときの作品「神楽坂ファミリー」(書籍名『じーさん武勇伝』(講談社文庫))や文庫『オアシス』(ソニーマガジンズ)のじーさんも元気溌剌でどこか突き抜けた面白さのあるじーさんでした。

 破天荒で家族を振り回しながらも茶目っ気たっぷりで憎めない、孫たちが憧れるじーさんです。特にこのサニー多々良は往年の名トランペッターでステージに上がりジャズの名曲を数々演奏するという、かっこよさでは歴代のじーさんのトップといってもいいでしょう。

 竹内真のジャズの知識もすごいです。出てくる曲数の多さ、その来歴、時代を踏まえて出てくるそれらをすべて聴いてみたくなります。

 少年の成長物語というのも竹内真の全作品を通してのテーマになっていると思うのですが、こちらはじーさんと違って奇抜さに走らないところにその良さがあると感じます。親子の対立も進路も就職も恋愛も人生で体験することが等身大で描かれているのです。そしてどんな局面であっても可能性を捨てずに前に進んでいく姿に正攻法のしたたかさを見せられるのです。

 最終章で三兄弟が探ったルーツに対して意外な形で解答を受け取ることになる場面では、思わずホロリときます。そして成長した三兄弟の姿にも万感の思いがこみあげてきます。

 本を手にとられた方はお気づきでしょうか。表紙に並ぶ精緻な根付のかたすみ、ちょうど帯でみえない部分に本文にも登場する根付が隠れています。その作者名も本文中にあるのですが、なにやらそこにもルーツがありそうです。今度は読者がそのルーツを探る番なのかもしれません。
 

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喜久屋書店宇都宮店 大牧千佳子
喜久屋書店宇都宮店 大牧千佳子
本屋となっていつのまにやら20年。文芸書と文庫を担当しております。今の店に勤めて6年目。幼い頃、祖母とよく鳩に餌をやりにきていた二荒山神社の通りをはさんだ向かい側で働いております。風呂読が大好き。冬場の風呂読は至福の時間ですが、夢中になって気づくとお湯じゃなくなってたりしますね。ジャンルを問わずいろいろと、ページがあるならめくってみようっていう雑食型。先日、児童書担当ちゃんに小 学生の頃大好きだった児童書『オンネリとアンネリのおうち』(大日本図書版、絶版)をプレゼントされて感動。懐かしい本との再会というのは嬉しいものです。一人でも多くの方にそんな体験をしてほしいなあと思います。