『次の本へ』苦楽堂

●今回の書評担当者●蔦屋書店ひたちなか店 坂井絵里

次の本へ
『次の本へ』
苦楽堂
1,944円(税込)
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 13歳の息子がいいました。

「何の本を読んだらいい?」

 通う中学校は朝、授業の前に10分の読書タイムがあります。その時間に読む本は何がいいかと聞くのです。

 去年は、江戸川乱歩はどうかな?と自分が同じ年の頃に夢中だった本を渡しました。「次も乱歩読みたい!」ってなるぞ、とわくわくしていたところ、数日たち、「読み終わったー次は何がいいかな」あれ......乱歩に夢中にならずか......。それなら次は、私の大好きな広瀬正の『マイナス・ゼロ』をぜひ読んでみて、一緒に感動を分かち合おう、と渡すと、少しページをめくり、「んー、他の本ないかなー」
 
 そうか......。マンガとゲームが大好きな13歳の少年は、読み始めにすぐ脳内で映像化されるような......今はそんな本がいいのかもしれない......。勉強の時間を削り、深夜に(勉強では見せない)ものすごい集中力を発揮してマンガ『シュトヘル』や『鉄風』や『スピリットサークル』や『預言者ピッピ』を読み続ける彼が、授業中でも続きが読みたくてうずうずする本はないものか......。そこで息子の友人が夢中で読んでいた、上橋奈穂子さんの〈守り人シリーズ〉の1巻めを試しに渡すと、数行読んだところであっという間にぐぐっと物語に入りこみはじめました。
 
「2冊は読んだ。でも、次にどんな本を読むといいのか、わからない」と、息子のように、何人もの高校生や大学生、そして社会人の方からもよく聞いたという、出版社・苦楽堂を立ち上げた石井伸介さん。本書『次の本へ』は、そんな声に、経営学者、歌人、作家にルポライターなど、84人の方が答えてくれた本です。すべて書き下ろしで、エピソードをまじえ、面白い2冊目との出合い方をたっぷりと案内してくれます。ある本を読んだあと、次の2冊目へどうたどり着いたか。それぞれの出来事や視線が興味深く、ブックガイドとは全く違う味わいがあります。
 
 作家の楠木誠一郎さんは、1冊目に『銀河鉄道の夜』をあげて、そして2冊目にエラリー・クイーンの『チャイナ橙の謎』をあげています。宮沢賢治からエラリー・クイーン?と思って本文を読んでいくと、楠本さんは小学校の春休みに銀河鉄道の夜を買った2坪ほどの小さな書店で、本と一緒に新潮文庫の目録をもらいます。それから目録だけで小説の世界がのぞける喜びを知り、いろいろな目録を見る中、創元推理文庫の目録が気に入り、そこで興味を持ったクイーンの小説を購入した......と「次の本へ」つながっていきます。
 
 新聞記者の磯辺康子さんは、小6の教科書の問題にあった作品の一部(主人公が遭難し、薄れゆく意識の中で書き留めたメモ)が心に残ったそうです。「ガス全クナク、月光コウコウ。二時十五分ナリ。苦痛全クナク、寒気ヲ感ゼズ。静カナリ。限リナク静カナリ。」
 それは井上靖さんの小説『氷壁』からの一部。すぐに家の近くの書店で購入。
 教科書から「次の本へ」つながっていきます。その後大学時代に井上靖の本を続けざまに読むと、井上靖は若い頃、自分と同じ新聞記者だったことを知ったそうです。
 
 こうした84のエピソードは、それぞれの末尾だけ読んでもわくわくさせてくれます。 

「人生を導いてくれる次の本との出会いを期待し、私はバッタ研究に没頭する。」 
「『若い時代の感動は人生を変える』ある意味真実であると信じている。これは僕の言葉。」  
「本は、そのときの経験や力量でしか読めない。だからこそ、自分だけの、かけがえのない一冊になる。」
「当時の漫画をまとめた作品集に『うみべのまち』がある。ぼくはその本を起点に、いくらでも本をつなぐことができる。」  
「本から本へと巡り合うきっかけは、自らの行動の半歩先(それも意識してアンテナを高くかかげた部分)に思わぬかたちで潜んでいるものだ。」
 
 また、"「次の本」に出合うきっかけ別インデックス"という索引があり、これが本書の魅力をさらに引き出しています。
 人/場所/文章/こころ/本、雑誌、マンガ、映画/時間/分野と、7つのきっかけに分類されていて、ここを眺めているだけでも「次の本へ」導かれそうです。例えば「人」の項目では、友だち、先輩、家族、好きな著者、翻訳者、登場人物、などといった、出会うきっかけになった「人」別のインデックス。それだけで、あの人に好きな本はなんですか、って聞いてみよう......大好きなあの登場人物が興味のあることの本を読んでみたい......と思い浮かんできます。84人の84通りの次の本への出会いがさらに膨らむ構成になっています。
 
 表紙の、本屋さんをスライスして上から眺めているような魅力的な装画は、青山大介さんによる〈海文堂書店絵図1914-2013〉です。海文堂書店は神戸にあった老舗の本屋さんです。いつか神戸へ行ったら訪れたいと思っていた本屋さんでしたが、2013年に閉店してしまいました。本がぎっしりと本棚につまったその絵は、本がぎっしり紹介された本書からまたさらに本へとつながる、『次の本へ』にぴったりの装画です。"海"文堂さながら、まさに本の"海"を思わせてくれます。

 苦楽堂さんのHPによれば装画の青山大介さんは1976年神戸生まれ。独学で鳥瞰図に取り組み、今では数少ない若手鳥瞰図絵師として活躍されているそうです。閉店を知ってから10日間で描かれたという表紙で使われた鳥瞰図は、海文堂書店の最後の3日間、店頭で売られ人気だったそうです。
 
 この表紙の絵が気になって次へと進む「次の本」でぴったりなのは、苦楽堂さんが出版した2冊目の書籍。2015年7月に発売された『海の本屋のはなしー海文堂書店の記憶と記録』です。99年間営業し、2013年に歴史を閉じた、神戸の老舗書店・海文堂書店。そこで長年勤務されていた著者の平野義昌さんによる、海文堂書店の"記録と記憶"です。

『次の本へ』を出版された出版社さんに興味がわいて次へと進む「次の本」でぴったりなのは、同じように自ら出版社を立ち上げたという10人のインタビューで構成された『"ひとり出版社"という働き方』(西山雅子編 河出書房新社2015年7月初版)。次へ次へと広がります。
 
 息子はその後〈守り人シリーズ〉を読了し、「同じ作者の違う本へ」と続き、〈獣の奏者シリーズ〉を読み、今は短編集へ。次は本屋大賞の『鹿の王』が控えています。上橋奈穂子さんの世界から帰ってきたあとの、息子の「次の本」は何だろう。「次の世界」はどこだろう。この本もいつか手にとって、本とこんなふうに出会えることを知り、自分自身で選んだ本にいろいろな想いがあわさり、気づいたら忘れられない一冊がたくさんできたらいいと思います。
 
 本書冒頭、この本の使い方ーまえがきに代えて、にはこうあります。
「一冊の本、ひとつの考え方だけで「あなた」が立ち止まってしまうことは、もったいない(もしかすると危ない)と思うのです。自分自身で『次の本』に出会い、あなた自身の喜びや、考える力を手に入れるために、この本をお使いください。」

 自分と同じ考え方の人の意見に簡単にたくさん出会え、自分とは合わない人の意見を簡単にないものとすることができる、そんな環境や場所の多い今。思索の糸口はよく見るといろいろな場所に張り巡らされています。固執せず、思考をかためるのは、できるだけたくさんの「次」を知ってからでも、「次の本」と出合ってからでも、遅くはありません。
 
 そして『次の本へ』の最後のページには、『続・次の本へ』は2015年秋に刊行の予定です、と一文が。次はどんな方がどんな本をどんなエピソードで......。2015年の秋がきます。本の世界がまた広がります。楽しみはずっと続きます。

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蔦屋書店ひたちなか店 坂井絵里
蔦屋書店ひたちなか店 坂井絵里
1971年東京生まれ。学生の頃は本屋さんは有隣堂と久美堂が。古本屋さんは町田の高原書店と今はなきりら書店がお気に入りでした。子どもも立派なマンガ好きに育ち、現在の枕元本は、有間しのぶさんに入江喜和さん、イムリにキングダムに耳かきお蝶・・とほくほく。夫のここ数年の口ぐせは、「リビングと階段には本を置かないって約束したよね?」「古本屋開くの?」「ゴリラって血液型、B型なんだって」 B型です。