『20』堂場瞬一

●今回の書評担当者●サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸

 かつての栄光はどこへやら。
 ついに売却が決まったかつての名門球団スターズ。本拠地でのシーズン最終戦のマウンドに立つのは球が速いだけでノーコンの高卒新人ドラフト6位、20日前にようやく1軍登録したばかりのピッチャー有原秀(19)。

 定まらない制球で守備のリズムを崩しフォアボールのランナーは出すものの気付けば9回までノーヒットノーラン。相手どころか自分のチーム、観客までもがこのまま行くのは無理だと思う乱調っぷり。もちろん投げてる本人だって達成出来るとは思っていないノーヒットノーラン。少しづつ最後が近づくごとにヒリヒリしてゆくラスト20球の攻防をめぐる「堂場版・江夏の21球」

 ところでマウンドから全力投球ってした事ありますか?
 プロ野球だと速球派は150キロ。草野球レベルだと130キロ出てれば十分剛速球なんですよね。

 それなのにTVで見ていると「遅っ!140キロって!気合入れろよ」バーカ!お前が投げてみろよ! どうせ110キロ投げるのがやっとこなんだろが! 俺! 初めて思いっきり腕を振って投げると指先の毛細血管がブチブチッって切れてジンジンしてくる。痛くても最後まで指を残して切るように投げないとボールがどこいくかわかんない。思いっきり投げるとストライクが入らないと同時に体力が削られていく。ゴッソリと。

 有原くんは8回までに128球投げている。プロの舞台で、先輩が守る守備をバックに。どれほど神経と体力が削られた事だろう。あと20球は近くて遠い。

 前作『ラストダンス』のバッテリーが今作では監督とピッチングコーチとして。『焔』でのライバル2人も解説者と観客として。現・旧オーナーから近所の中華屋のマスターに高校時代の元マネージャーまでが様々な視点でそれぞれの想いを1球1球に込めていく。肝心の新人ピッチャー有原は
「もう、かんべんして欲しいよ」
 果たしてノーヒットノーランは達成できるのか?

 前作『ラストダンス』、『焔』と続くスターズの歴史を読み返したくなり、新人ピッチャーのこれからも読みたくなる熱い野球小説!スターズは終わらない!

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 POPは有原投手をイメージして紙粘土で作成。フォームは東京ヤクルトのライアン小川をイメージ。ユニは前作ラストダンスの表紙から起しました。

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サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
サクラ書店平塚ラスカ店 柳下博幸
1967年秋田生まれ。嫁と猫5匹を背負い日々闘い続けるローン・レンジャー。文具から雑貨、CDにレンタルと異業態を歴任し、現在に至る。好きなジャンルは時代物(佐幕派)だが、CD屋時代に学んだ 「売れてるモノはイイもの」の感覚は忘れないようにノンジャンルで読んでいます。コロンビアサッカーとオルタナティブロック愛好家。特技・紐斬り。