第4回 天羽飲料・堺社長、大いに語る!〈前編〉

4.ハイボール原液 ・味の秘密

 堺社長は、次のように明かしてくれました。

 「まあ、うちの品物に関して、ウメ・ブドウは、多少はまねできるでしょうけど、マルAのハイボールの液は極秘というか、まねできないんですよ。要するに、コカ・コーラと同じなんです。あれもいまだに特許とっていないでしょう。原料がわからない。それと同じように、うちのハイボールもちょっとわからないのが入ってましてね、それはもちろん言えませんけど、それがネックなんです」

 私の想像ですが、謎のエキスの味は、おそらくガラナに、さまざまな工夫がつけ加えられているのではないでしょうか。とすれば、ガラナを使った割り材が先に考えられていたことが、色つきになった理由なのでしょう。

 「宝酒造さんが、うちのハイボールを研究して『クラシック』(2005年9月発売「昭和20年代後半に東京・下町の大衆酒場で、「焼酎+炭酸+店独自のエキス」で作られた「焼酎ハイボール」が誕生し、50年経った今でも同地域を中心に飲みつがれています」という説明がついている)を出したとき、おたくのことを裏ラベルに書きましたって、持ってきたから飲んだんですけど、まあ、よくがんばったけどちょっと違うねって言いました。やっぱり長続きしなかったですね。このハイボールの味はすごいデリケートだから、ちょっとでも味が違うとみんないやがるんです。もう50年以上飲ましこんじゃってるから、なかなかまねできないかと思います」

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天羽の梅のラベル
 もうひとつ、味を考える上で大きな問題は、一升瓶の腹貼りのラベルに、梅の絵と「天羽の梅」の文字が使われていることです。


 「なんで梅のラベルになったかというと、もともと梅割り用の液のペーパーが大量にあったから、もったいないので貼った。そのままだと梅液と間違えるから、丸にAという赤いラベルをポンと貼り、A印のエキスとして売ったんです」

 堺社長は、「ぜんぜん梅とは品物がちがうんですけどね」と笑います。

 「なぜかというと、その当時お金がなくて、売れないかもしれないのに、新しくペーパー作るのはもったいないと。ところが、うまく当たっちゃった。だから、ハイボールのエキスは、梅じゃないんです。味がちがうでしょう。でも梅の腹貼りはややこしいから、途中でハイボール用の腹貼りに変えたいと提案したんです。でも(顧客から)、これがおたくのトレードマークで、みんな慣れ親しんでいるし、変えないでくれと反対されました」

 というのも、「知らない人が見たら、これは梅(でつくった味)だと思う。本当は梅じゃないから、店で出しているほうは、"ざまあ見ろ"と思う。これがカモフラージュになっていいと言うんですね」

 私たちのような部外者にたいして、味の秘密を守ることが優先されたとは、じつに痛快な話ではないでしょうか。

 さらに、堺社長は

 「うちの原液を使っている店に、行列ができるようになったのは、ハイボールの味が、モツによく合うからなんです」

と、「謎のエキス」の味は、最初から内臓肉に合うように設計されたと証言しました。

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酎ハイと煮込み・もつ焼き
(千住の永見:後出)
 「うちの親父は、これからは贅沢な時代になって、肉もいっぱい喰うようになる。天羽商店は、もともと、洋酒問屋の頃に、店にカウンターを設けて、立ち飲みもやっていたそうです。そのときに、小僧だったうちの親父が煮込みを作らされていた。煮込みやもつ焼きに合う飲料はこれからますます出るんじゃないか、そう考えてました。だから、とくにモツに合うように作ったんだと思います」

(前編 了)

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