第8回 新しい庶民酒をつくる東京の地域力 〈前編〉

4.新商品「カンダ梅ハイボール」について

ume hi.jpg サントリーが人気を復活させた「ハイボールは、もともとトリスバーの時代に流行したものが、いまの人から見て、斬新な、まったく新しい飲み物と認知されたわけです。そこで弊社も原点に返るつもりで、梅をテーマに新商品をつくりました」

 なぜ梅が選ばれたのでしょうか。「梅割りは戦後、アルコールの質が悪くて、今のようにそのまま水やお湯で割れなかった時代のものです。当時の味わいを想像しつつ、今のおいしい焼酎やウイスキーにもぴったりの商品に仕上げました。戦後を知っていらっしゃる世代には、"昔、梅割りというのがあったな"と思い出していただき、そうでない若い世代には"梅でウイスキー割っちゃうの?"と新鮮に感じていただければ。『古くて新しい商品』がコンセプトです」
 「梅は、和風の材料なのに、焼酎だけでなく、ウイスキーなどの洋酒とも、不思議なくらいよく合います。相談にのっていただいたカクヤスの担当者様からは、いま、ハイボールといえばウイスキーハイボールがお客様の念頭にあるから、焼酎とウイスキーの両方を割っておいしくないといけない、とアドバイスいただきました」

 昭和30年代後半に開発されたカンダハイボール原液も、ウイスキーとよく合うことが知られています。たとえば、色つき酎ハイの老舗「きくや」グループのハイボールには、カンダハイボール液に焼酎とウイスキーが混ぜてあり、一度飲んだらくせになることうけあいの味に仕上がっています。したがって、「焼酎にも洋酒にも合う」商品開発は、単に時流というだけではなく、同社の伝統を押さえた上での助言なのでしょう。

 秦さんは、こういいます。「私が入社し、開発にかかわり始めた昭和60(1985)年ごろは、バブル経済の中で、よりおいしいもの、より健康にいいもの、付加価値を求められました。お客様は、ありきたりのレモンやライムではもう納得しない。そこで、ゆず・すだちなど、高級な柑橘類を手がけました。そして、ここ十年ほどは健康食品ブームで、コラーゲンやペプチド、消化吸収を遅くする増粘多糖類など、健康食品の材料をずいぶん試しました。でも、うちは結局、ジュース屋なので、あっちもこっちもというのはやはり育っていかない。ジュースと焼酎の割り材をつくるのが、最終的には一番いいのかなと、いまでは考えるようになりました」

(後編につづく)

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