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10月22日(月)

 最近は朝、散歩することが多い。愛犬を連れて朝8時ごろ歩いていくと、出勤途中のサラリーマンと次々にすれ違う。そうか、これからみんな仕事なんだと、彼らの邪魔にならないよう道の端を歩いていく。

 我が家の愛犬はもう十五歳を超えた。踏み切り際に捨てられていた犬を長男の同級生が拾ってきて、その家に遊びに行った小学四年生の長男が貰ってきた犬である。捨てられたときの恐怖と心細さがずっと残っているものなのかどうか知らないが、臆病な犬だ。最初のうちは、散歩の途中に猫に会うと嬉しそうに近づき、ところが猫にひっかかられてびっくりし、それを繰り返しているうちに、いまでは散歩の途中に猫と会うと見ないふりで通りすぎるのである。お前、それはいくらなんでも不自然だろ、見えているだろとは思うのだが、彼には彼の事情があるのだろうから、私も見ないふりで通りすぎる。

 最近は一日中寝ている。以前は玄関を開ける前から音や匂いに敏感に反応したものだが、最近は玄関を開けても全然気づかず、熟睡を続けるのである。しばらく前は目だけ開け、お前かと確認するとまた目を閉じて睡眠を続けたが、最近は音がしても目も開けないのである。いまの家に引っ越してきたのは二年前で、そのときは新しい家に馴染めないのか、くーんくーんと数日鳴いていたが、あれはまだ元気だったころのことだ。自分が十年以上住んだ家を離れて心細かったのかもしれない。この一〜二年で急激に老けた。

 そのくせ朝と夕方は元気に吠えて、早く散歩に連れていけと催促する。散歩から帰ると、犬用の干し肉をあげるのが通例になっていて、それを忘れて居間に入ろうものなら、わんわんと吠え続けるのである。お前、ホントに老犬か。いや年を取ると、食べることしか関心がなくなるのかも。

 今朝はおやっと思った。いつもの散歩コースを歩いていたら、急に立ち止まってこちらを見上げるのだ。どうしたんだい? 道を渡ろうと綱を引っ張るので、本当はあと数百メートル行ってから向こう側に渡ろうと思っていたのだが、仕方ないなとそこで渡ることにした。するとそのまま家のほうに帰ろうとする。えっ、もう帰りたいの?

 ところが家に向かっていくと、曲がり角でまた立ち止まる。そこの角を曲がろうとするのだ。まあ、お前の行きたいほうでいいよ、とその角をまがって、だらだら坂を登っていく。私の家の近所は、丘の多い地域で、どの道を行っても登ったり降りたりするから、いい運動になる。二年前に引っ越してきたとはいっても、近所を散策することがこの二月まで極端にすくなかったので、いつもと違う道に入ると途端にわからなくなる。ようするに知らない街なのだ。

 愛犬は道の端に咲いている花に顔を近づけ、くんくん嗅いだりして忙しいが、はてこの道はどこに出るのか。丘の上に登ると五叉路に出た。車の通るような広い道ではない。まわりに住宅が建ち並んでいるので、見通しもよくない。家に帰るにはどの道を行けばいいのか、わからなくなった。五叉路であるから、来た道を除くと選択肢は四つ。いちばん左はいくらなんでも方向が違うからそれを除くと選択肢は三つ。その三つの道は、どの道も家の方向に向いているように思われる。

 私が立ち止まったので、愛犬はどうしたのと私を見上げてきた。家に帰るにはどの道だと思う? そう言うと、なんだそんなことかいと言うように一つの道を選んで歩きだすのである。本当にそっちの方向でいいのかなあと思いながら歩いていくと、知っている道に出た。おお、ここに出るのか。

 お前は賢いねえ、と家に帰ってから干し肉をあげると、がしがし噛むのに夢中で、もう私のほうを見ようともしなかった。

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