12月19日(水)

 馬の名前には面白いものが少なくない。たとえば、ずいぶん昔、キビダンゴという馬がいた。それを思い出したのは今年の春だ。指定席の上のほうから双眼鏡で覗いていたら、金網の向こう側から1頭の馬が首を突き出して、お客さんに撫でられていたことがある。まだ第1レースが始まる前、そうやってサービスすることがあるが、その馬のゼッケンを見ると、キビダンゴとあり、おお、あの馬かと思い出したのである。今年の秋以降は見かけなくなったので、誘導馬を引退したのかもしれない。

 そのキビダンゴが現役で活躍していたころ、モモタロウという馬もいた。一緒に走ったことはなかったような気がするが(同時代の馬でも条件が異なると、一緒には走らない)、私の記憶だからアテにならない。

 仙台にいる馬友が珍名馬券コレクターで、そういう珍名馬が出てくると、せっせと馬券を買っている。朝、競馬場に行くと、いちばん最初にするのが珍名チェックで、微妙な名前も少なくないから、ときどき「これ、面白い?」と尋ねられることがある。買うのは、100円の単勝馬券。

 いわゆる馬券コレクションの場合も、100円の単勝馬券が良しとされるが、その場合は本場で売られた馬券でなければ価値はないとされているらしい。つまり場外や他場で売られた馬券ではダメなのである。だから、あのディープインパクトがダービーに出走した日、その昼の段階で、ディープの100円単勝馬券がネットで300円で販売されたようだ。まだダービー当日の昼の段階であるから、誰でも100円で買うことの出来る馬券が300円で、何なのそれ、と驚いたものだが、東京競馬場に来ることの出来ないファンには交通費を考えればそれでも安いということだろう。引退したディープ馬券のフルコンプは相当に高かったらしい。仙台の馬友はそれを5セット持っていたから、いやはや。

 珍名馬券はそれとは違って、どこで買ってもいいようだ。いや、それも仙台の馬友から聞いた話なので、珍名馬券コレクターすべてに共通する事情なのか、それとも彼だけの決まりなのか、よくわからない。ただし、こちらには別の縛りがある。大馬主になると、馬の名前に冠をつけることがあり、たとえば、アドマイヤの馬はすべての馬が「アドマイヤ○○」であるし、同様に「メイショウ○○」とか、「マチカネ○○」とか、上に冠がつくケースが少なくないが、珍名馬券コレクターは、そういうのは珍名と見なさないと言うのである。だから、「マチカネオテモヤン」(こういう名前の馬が本当にいたのである)とかいうのはダメなんだという。どの世界も基準は結構厳しいものがある。

 今年の秋に毎日王冠を勝ったのは、チョウサンだが、これは長嶋とは関係ないらしい。競馬雑誌サラブレの2月号を見ていたら、2007年の珍名馬一覧が載っていて、これを紹介するのが、いちばん手っとり早い。

 サケダイスキ、コンナジダイニ、ワタシメダチタイ、オレノマエニイケ、コワイモノシラズ、キヲウエタオトコ、ハンサムデイイヤツ、と珍名がずらり並んでいる。その中でも目立っているのが、ソンナノカンケーネ、ドンダケーだ。日本のサラブレッドは馬名審議会で了承されなければ登録されないが、これらの名前がよく通ったものだ。

 その中に、ゾルトンワージという名前があり、何度見ても、どうしてこれが珍名なのか、わからなかった。わかりますか? もうすぐ正解を書くので、それまでに考えてみてください。

 その表の下に説明があり、それを読まなければわからなかった。逆から読むと、「G1取るぞ」になるんだって。なるほど。しかしここまで凝っちゃうと、わかりにくいから、はたして珍名と言えるのかどうか。

 今週末は、いよいよ一年の総決算である有馬記念だ。実は私、生まれて初めて取った万馬券が、有馬記念なのだ。ハイセイコーが一本かぶりになった年だから、昭和四十八年だ。私が競馬を始めた年である。あれからもう三十三年もたってしまったのかと思うと感慨深い。最近はレートも控えめにして、昔のようにバカな買い方はしなくなったので、冷静に週末を迎えそうだが、それでも暮れの大一番が近づくと胸が躍るものがある。

 その勝負の行方よりも、あと何回、有馬記念を観ることが出来るかどうか、ということのほうが大切だ。もうそれほど数多く、観ることは出来ないだろう。だから、味わって、慈しんで、静かに観たい。有馬が終わると今年も終わる。