9月24日(月) これから読む本、読みたい本

母親ウエスタン
『母親ウエスタン』
原田 ひ香
光文社
1,785円(税込)
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勘違いしそうに青い空 (双葉文庫)
『勘違いしそうに青い空 (双葉文庫)』
冨士本 由紀
双葉社
680円(税込)
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箱の中 (講談社文庫)
『箱の中 (講談社文庫)』
木原 音瀬
講談社
760円(税込)
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 原田ひ香『母親ウェスタン』(光文社)が素晴らしい。その紹介は「本の雑誌」11月号に書いたのでそちらをお読みいただきたい。問題は、この作家の作品を私が初めて読んだことだ。こうなると急いで過去の作品を遡って読まなければならない。どうやら『はじまらないティータイム』『東京ロンダリング』『人生オークション』と著作はまだ3作のようだ。3作なら遡るのは楽勝だ。7作までなら遡ることが出来る、というのが持論である。じゃあその3作を注文しちゃおう──と思ったら、その著者略歴の1行上に、2007年に「はじまらないティータイム」ですばる文学賞を受賞、とある。なんだい、純文の作家だったのか。じゃあ過去の作品を遡ることはないか。私、純文には接近しないようにしているのだ。接近しないジャンルは他にもあるが、それはエンタメで手一杯なので、それ以上手をひろげるのはとても無理だからである。他意はない。そう言われてみると、『母親ウェスタン』の帯4に大きく、「すばる文学賞受賞作家が挑む、初の長編エンターテインメント」とある。最初からここを見ればよかった。つまり、2007年にすばる文学賞を受賞した作家が4作目に初めてエンターテインメントを書いたら傑作だったということだ。たぶん、そういうことだろう。

 で、たまたま飲み会があったので、吉田伸子をつかまえて、「おいおい、原田ひ香の『母親ウェスタン』、すごいぞ」と声をかけた。私、人より先に読んで、飲み会などで絶賛してまわるのが好きなのである。なにそれ、早く読まなくちゃと焦る様子を見たいんである。昨年前半は、白河三兎『角のないケシゴムは嘘を消せない』を各社の編集者と会うたびに絶賛しまくったが、こういうのはみんながすでに読んでいる小説だとウケない。なにそれ? という小説のほうがいい。

 だからてっきり、「なんですかそれ?」と吉田伸子が言うと思った。ひかって何? ひらがなの「ひ」に、漢字で「香」なんだよ、というやりとりまで考えていたが、「えっ、原田ひ香の新作が出たんですか。あたし、ファンなんです」と伸子。えっ、お前、知ってたの? 私はこの『母親ウェスタン』で初めてこの作家のことを知ったんだけど。じゃあさ、過去の作品も読んでる? たとえば『東京ロンダリング』とか。「それ、面白いですよ」「でも純文だろ?」「エンタメですよ」。なんと、吉田伸子は『東京ロンダリング』はエンターテインメントだというのである。他の作品は覚えてないらしいが、この『東京ロンダリング』は間違いなくエンタメだと断言するのだ。

 でもなあ、『母親ウェスタン』の帯4には「初の長編エンターテインメント」とあるのだ。2011年7月刊の『東京ロンダリング』がエンタメなら、この『母親ウェスタン』は「初」ではないぞ。仕方ないので注文することにした。自分で読んで判断することにしよう。『母親ウェスタン』の帯コピー製作者と吉田伸子の勝負だ!

 こういうふうに、途中まで未読で、あわてて遡るケースは少なくない。幻冬舎の「ジンジャーエール秋号」の「スギエ×フジタのマルマル読書8」を読んでいたら、富士本由紀『勘違いしそうに青い空』(双葉文庫)を藤田香織がすすめているのが目に止まった。ダメ男小説だというのだ。その内容は藤田香織が次のように紹介している。

 主人公の栗田匡は、無職で持病持ちの四十七歳で、自分の娘ぐらい若い二十三歳の彼女と付き合って生活も助けてもらってるのに、その母親ともやっちゃってたりする。おまけに、十何年も昔に別れた元カノ、しかも軽度の統合失調症で入院している彼女から連絡があったらふらふら会いに行って、そっちともよりを戻しちゃう。抜き差しならぬ状況に、自ら突入していって、誰も幸せにできず、当然自分も幸せになれない。

 おお、いいなあ。ダメ男小説のベスト1は石和鷹『クルー』だというのが持論だが、なんだかそれに匹敵するんじゃないかという気がしてきた。
 この対談によると、作者の富士本由紀は第7回の小説すばる新人賞を受賞してデビューした作家で、この18年間に著作は6作というから寡作作家だろう。とりあえず、その『勘違いしそうに青い空』をたまたま新宿に出る用事があったので、紀伊國屋書店本店に買いに行った。これが面白ければ、遡ろう。面白いかどうかは、藤田香織との勝負だ!

 で、その『勘違いしそうに青い空』を買ってから、文庫の新刊コーナーを見ていたら、木原音瀬『箱の中』(講談社文庫)が目に止まった。これもまた初めて知る作家である。「息苦しさこそ愛の真実」三浦しをん、という帯の文字が目に入って、思わず手に取ってしまったのだが、その三浦しをんの解説によると、この木原音瀬という作家は「BL愛読者のあいだでは広く知られた存在で、熱烈なファンが多い。BL小説界でもっとも実力と人気のある作家の一人」ということのようだ。私、BL(ボーイズラブ)小説に興味があるわけではないのだが、その三浦しをんの熱い解説を読んだら、大変だという気になってしまった。で、これもまた購入してきた。三浦しをんとの勝負だ。いや、これは違うか。

 ただいまは、宮部みゆき『ソロモンの偽証』全3巻というのが控えているし、来月には横山秀夫の7年ぶりの長編『64』も出てくる。あと数日後にはスコット・トゥロー『無罪』まで出る。この『無罪』は『推定無罪』の後日譚らしい。20年前の続編を語るなら、その前編にも触れる必要があるだろうから、『推定無罪』も再度読まなければならない。細部を忘れているからその必要がある。
 他にもいろいろあるから、旧刊を読んでいる場合ではないのだ。にもかかわらず、そうだ、呉智英の著作も再読したいと突然ひらめいたので数冊買ってきてしまったし、平岡正明の自伝も買ったまま読んでいない。どうするんだオレ?