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12月12日(金)

「週刊新潮」12月18日号をぱらぱらと何気なく見ていたら、映画評のコラムがあった。その号で取り上げていたのは、「エグザイル/絆」という映画で、評者は北川れい子。これがすごかった。いきなり、「嫉妬する。猛烈に嫉妬する」と始まるから、思わず読み進む。「ロクでもない世界に生きるヤクザたちの話だが、邪気のない彼らの心ばえの美しさは憎らしいほどで、演じる俳優たちがまた絶品」「そして大胆、華麗、目が眩むようないくつもの銃撃戦。話の節目ごとに更にスタイリッシュに進化する銃撃戦は、まさにモダンバレエもかくや、その流麗さに金縛り」。おお、引き写しているだけでこの映画を見たくなる。「スタイリッシュに進化する銃撃戦」って、どんなんだ? すごく気になる。

 どうやら舞台は90年代末、中国返還間際のマカオのようだ。ボスを裏切った男を2人が追いかけてきて、もう2人は彼を逃がすために待機。つまり5人の男が出てくるのだが、この5人が幼なじみという設定らしい。もう1ヵ所だけ引く。

「5人による激しい銃撃戦が、赤ん坊の泣き声でピタッと止み(奇跡的に誰も死なない)、そのまま男たちが料理作りを始める呼吸の良さ。腹が減っては戦さはできぬ、もう組織の掟などくそ喰らえ!」

 ここまで読んできて、この映画を絶対に観に行く、と私は決めた。映画評を読んでいるだけで脈がどんどこ打ってくる。これは大変だ、という気になってくるのだ。こんな映評、読んだことがない。

 大学生のときは映画研究部に所属し、年に300本も観ていたが、大学を卒業してからは映画をほとんど観なくなり、これではいかんと渋谷の香港国際映画祭に毎日のように通っていたのは、もう20年ほど前になるだろうか。チョウ・ユンファ主演の「タイガー・オン・ザ、ビート」で、彼の足がぴょっと伸びてきたとき、チョウ・ユンファもカンフー・アクションをするんだと感激したことを思い出す。

 あれからまた20年、その間、見たいと思った映画はたくさんあるのだが、わざわざ映画館に行くのも面倒だなあと思って、結局は足を運ばなかった。しかし、この「エグザイル/絆」は見たい。北川れい子の映画評の力が、いま私を揺すぶっている。

 そうか。書評もこれだけの力が持てればいいのにな。久しぶりに猛省するのである。

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