1月29日(木)

 暮れに池林房に顔を出すと、久々に会ったオーナーのトクちゃんが私の顔を見るなり、「どうしたのそれ?」と言った。2008年の2月に禁煙を始めたら、どんどん太ってパンパンに膨れ上がったから、久々に会う人に顔を指差され、「どうしたのそれ」と言われても仕方がない。そのたびに俯くのである。

 今から十五年ほど前の夏、新潟のホテルが全部満室で予約が取れず、旧知の人を頼ったことがある。「本の雑誌」の創刊初期、新宿のホテルでしょっちゅう宴会を開いていたことがあり、そのときの宴会主任が新潟のホテルの支配人になっていたので、彼に頼んで部屋を取ってもらった。で、当日そのホテルに行くと、私の到着を待っていてくれて、私がドアを開けて入るなり、遠くのほうから「めぐろさあーん」と駆け寄ってきて、いきなり「どうしちゃったんですか、そんなになっちゃって」と言ったことはまだ覚えている。
 そのときすでに、旧知の人がびっくりするくらい、すっごく太っていたんですね。つまりAクラスのでぶ。その支配人はA級に変貌したことに驚いたわけだが、いまから考えるとそれでもまだスマートだったと言わざるを得ない。それから幾星霜、いつの間にかS級のでぶになり、本人もそれに慣れたころ、禁煙したらその上のクラスの超S級になってしまった。

 いくらなんでも、これはまずいと年明けからダイエットを始めることにした。医者にも注意されたことだし、とりあえず超S級からS級に戻したい。その差が10キロ。太るのは簡単だが、10キロ痩せるのは並大抵ではない。そこで、ダイエット本をいろいろ読んで、自分にも出来そうなやつを探してみた。

 その中に、朝はリンゴのみ、昼は野菜サラダのみ、晩飯は自由に制限なし、というやつがあった。読者の投稿なのだが、この方法で2年間に18キロ痩せたと言うのである。そこまでは望まないのだが、これなら出来そうだ。しかし晩飯を自由に食べていいなんて、こんなんで本当に痩せるんだろうか。
 で、始めたのが1月8日、それから3週間が経過して、ただいまはスタート時に比べてマイナス4キロ。とりあえず今のところ順調である。問題は5キロの壁を超えられるかどうかで、どこかで体重の下降がとまったとき、どうするか。それが次の課題になるだろう。

 しかし私、秋にバーバリのスーツを買ったばかりなのだ。超S級の体型になってしまい、それまでのスーツが入らなくなったので仕方なく買ったのだが、もしS級の体型に戻ったら、それがぶかぶかになる? おお、もったいない。
 実は昨年秋の段階でダイエットする気はまったくなかった。むしろ、これ以上太らないように高いスーツを買えば歯止めになるんじゃないかと思ったのだが、それまでも全然歯止めにならなかったことをすっかり忘れているから、いいかげんである。しかし痩せて使えなくなるとは予想外の事態である。まだそうなったわけではないんだけど。
 S級も超S級も、第三者にはさして違いのないことだろうが、本人にはこのように重要なことなのである。ま、痩せてから考えればいいか。それよりもこの方法で、本当に痩せるんだろうか?

1月7日(水)

 池上冬樹が18点、杉江松恋が17点。2008年に彼らが書いた解説の数である。それぞれの日記に本人が書いていたので正確だろう。日記には、彼らが解説を担当した書名も書いてあり、その一覧を見ていると、へーっ、あいつ、この小説を好きだったのか、とかなんとか思いが馳せて、まことに面白い。ようするに、同業者の仕事は興味深いということだろう。香山二三郎や大森望は、では一年間に何点解説を書いたのだろうかと気になってくる。ちなみに私、数えてみたら、2008年は9点であった。

 その書名をここに掲げる。


2月 今野敏『隠蔽捜査』(新潮文庫)
3月 石川達三『四十八歳の抵抗』(改版/新潮文庫)
3月 岩井三四二『戦国連歌師』(講談社文庫)
3月 井上裕美子『桃夭記』(中公文庫)
8月 田中芳樹『銀河英雄伝説10〔落日篇〕』(創元SF文庫)
9月 マーティン・クルーズ・スミス『ゴーリキー・パーク』(中野圭二訳/ハヤカワ文庫)
9月 阿佐田哲也『雀鬼くずれ』(改版/角川文庫)
9月 宮崎学『万年東一』(角川文庫)
11月 松村栄子『雨にも負けず粗茶一服』(ビュアフル文庫)

 北海道の山下さんが作成してくれた「北上次郎解説文庫リスト」によると、いちばん多かったのは2005年の17点で(その次が2002年と2006年の16点で、この三年間がなぜか飛び抜けて点数が多い)、それ以外は10点前後である。近年でいちばん少ないのが、2003年の7点だから、2008年の9点というのは近年の平均か。

 ところで、その山下さんのリストに、1992年8月刊のアリステア・マクリーン『雪原の炎』(小倉多加志訳/ハヤカワ文庫)、1993年刊のバーナード・コーンウェル『殺意の海へ』(泉川紘雄訳/ハヤカワ文庫)、2007年10月刊の光原百合『最後の願い』(光文社文庫)の3点が抜けていたことを以前ここに書いたかどうか、忘れてしまったので書いておきます。時々、本棚を整理しているときに古いものが出てきて、そういうものをぱらぱらやっているときに、おお、オレが書いてると発見することがあるので、そのたびにここに書くようにしているのだが、これは以前ここに書いたかも。

 話はがらりと変わるのだが、正月休みに昨年読み残したものをまとめて読んでいて、そこでぶっ飛んだのは、道尾秀介『カラスの親指』(講談社)。いやあ、こんなにすごい小説を新刊のときにどうして読まなかったのか。2008年の7月に刊行された本だから、いまさら書評に書くわけにもいかず、とても悔しい。

 いまごろ気がつくなんて恥ずかしいが、なあに、こういうことは珍しいことではない。あの小野不由美の「十二国」だって、第五部が出たときに初めて知ったくらいで、あの『銀河英雄伝説』なんて初めて読んだのが昨年のこと、なんと新刊時から20年後である。あれほどすごい小説と、20年間も無縁に生きてきたとは信じがたい。

 けっして自慢するわけではないが、ようするに、こういうことはよくあることなのである。いや、私の場合には、ということだが。思い出した。高橋克彦『火怨』も、読んだのは刊行から2年後だった。吉川英治文学賞を受賞した話題作をそれまで読んでいなかったのだから、こればかりは責められても弁解できない。

 そこで、道尾秀介『カラスの親指』の話に戻るのだが、はっと気がついたのは、1月8日の朝のTBSラジオで紹介できないかということだった。「森本毅郎スタンバイ」という番組の中の「トークパレット」というコーナーで、隔週木曜に本の紹介をしているのだが(岡崎武志さんと交代で担当)、今週の8日が私の番なのである。新刊紹介が基本なのだが、これまでにも数回、既刊本を紹介したことがある。例外がないわけではない。折よく、この小説は来週発表になる第140回の直木賞の候補になっている。いま紹介する意味がないわけではない。いや、強引に理由をでっち上げたんですが。

 そこでディレクターに相談すると、OKの返事。おお、嬉しい。というわけで、今週8日(木曜)朝8時21分ごろから5分間、TBSラジオで紹介します。