10月23日(金)

 いやはや、驚いた。
 某国営放送(ラジオのほう)のプロデューサーから出演依頼がきたのは8月の終わりであった。テーマは冒険小説。一度きりでなく、複数回にわたる出演なので、1回目はこの話、2回目はこの話、と内容をあらかじめ決めておかなければならない。それはいつごろまでに決めればいいですかと尋ねると、10月頭くらいまでにだいたいの内容を考えておいてくれませんかと先方は言う。で、9月末に、簡単なレジメを作ってメールで送ったのである。

 ところがそれから何の音沙汰もない。私が送ったのは、私の案にすぎない。向こうの希望だってあるだろう。つまり、私の腹案をたたき台にして打ち合わせをする必要がある。というのに、それからまったく何の連絡もない。どうしたんだ?

 最初に連絡がきたときに収録の日だけは決めたのだが、決まっているのはそれだけ。何の連絡もないということは、この話は流れたと解釈するしかない。こちらの出版業界にはよくあることだ。企画が中止になったのにその連絡もこないなんてことは珍しくない。

 その昔、文庫解説を依頼され、当時はFAXもない時代だったから(届けたり取りにきたりという時代だった)、夏休みの前に書き上げて事務所に置いていったら、夏休み明けに行っても原稿はそのまま。とうとう取りにこなかった編集者がいる。驚いたのはその半年後、同じ編集者が別の文庫解説を平気で依頼してきたことだ。先方は半年前のことにも触れないのだ。謝罪もなく、いきなりの依頼である。半年前はどうしたんですかと聞くと、「すいませーん。事情が変わって解説なしで出しちゃいましたあ」とあっけらかんと言うからびっくり。

 お断りしておくが、事情が変わるのはいいのだ。いや、よくはないが、それは仕方がない。それは会社の事情であり、彼の責任ではないことだってある。しかしそのときは連絡を寄越せ。事情が変わってこの企画は中止になりましたという電話はかけにくいだろうが、あんたが頼んだのだ。それくらいの尻拭いは仕方がない。

 放送業界のことはよく知らないが、某国営放送にも事情というものがあり、その企画が中止になったとしか思えない。連絡もこないとはずいぶん乱暴な話だが、まあ出版界にもいるんだから放送業界にそういう人がいても不思議ではない。

 だから先週、収録予定となっていた日に他の用を入れた。私だって暇なわけではない。で、昨日、そのプロデューサーから電話がきた。なんだ今ごろ? 収録が来週なんですが、と平然と言うから驚いてしまった。この間、連絡しなかったことに何も触れないのだ。私が3週前に送ったメールの返事はどうしてこないんですかと尋ねると、そのメールは届いていないという。ふーん。

 10月頭くらいまでに大体の内容を考えてくれと言ったのは、あなたなのだ。もし私のメールが届かなかったのなら、あなたのほうから連絡をくれるのが筋というものではないのか。それから3週間もたってから、「そろそろ来週なんですが」とようやく確認の電話をするというのは信じがたい。内容をまだ決めてないんだぜ。

 出版界の信じられない人間と違って(原稿を取りに来なかったのはあとにも先にもこの人だけだけど)、このプロデューサー氏はすぐに自分のミスに気がつき、謝罪をしたけれど、乱暴な仕事の進め方をした事実は消えない。結局出演は取り止めたけれど、まったく驚くことが多い世の中だ。