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3月8日(月)

 先週、久々に神田に行った。いつも書店にいくときは、何か出てないかなと新刊書評の目玉を探しに行くことが多いのだが、先週は原稿仕事が一段落し、その必要もなかった。ようするに、なんだか久々にぶらっと書店まわりをしたくなったというわけ。新刊書店だけをまわるなら新宿のほうが近いのだが、古本屋も一緒にまわりたいなと神保町へ。特別の用もないのに、ぶらぶらと書店をまわるのは楽しい。

 ところが何も買うものがないと、そのまま帰るのは淋しいもので、小宮山書店の店頭で、都筑道夫『狼は月に吠えるか』という本を購入。昭和五十四年に桃源社から出たソフトカバー本だ。短編集だが、おそらくその後、どこかの文庫に入っている作品ばかりと思われ、その文庫を所持している可能性も高いのだが、ま、いいやと購入。

 もう一冊、やはり古本屋の店頭で拾ったのが、永井龍男『回想の芥川・直木賞』(文春文庫)。これは1979年に上梓された単行本を、1982年に文庫化したものだ。自宅に帰れば本棚のどこかにあるはずなのだが、帰りの電車で読んでいくのにちょうどいいなと購入。船橋聖一に直木賞の選考委員を依頼したら、芥川賞ならと断られたとか(のちに芥川賞の選考委員になる)、芥川賞と直木賞の選考委員が兼務だった時期があるとか、内幕の話がてんこもりで面白い。

 選評がどんどん引用されて載っているのは興味深いが、古い回が多く、また芥川賞関係が中心で、直木賞関係が極端に少ないのは物足りない。その一番は、広瀬正を高く評価した司馬遼太郎の選評がここにないことだ。広瀬正は『マイナス・ゼロ』『ツィス』『エロス』と、1970年下半期(第64回)から3回連続で直木賞の候補になっているが、3回ともに高く評価した司馬遼太郎の選評が忘れがたい。当時は大学を卒業したばかりだったが、その選評を読みながら感動したことを覚えている。広瀬正をきちんと評価する人がいること、それが司馬遼太郎であることは、とても嬉しかった。その伝説的な選評がこの『回想の芥川・直木賞』にはないのだ。

 もっとも直木賞関連は、昭和30年代の初頭あたりまで(作家で言えば今東光あたりまで)の話題しか載ってないから、広瀬正だけが欠けているわけではないのだが。そうか、『選評・直木賞』という本が出ればいいのだ。『井上ひさし全選評』という本が出るのなら、直木賞の選評だけをまとめた本があってもいい。昭和10年上半期の第1回から、平成21年下半期の第142回まで、すべての選評をまとめたものが読みたいと思う。内幕話もなくていい。ただ選評をずらずらと並べたものでいい。日本大衆小説の変遷を、ある意味では映す本になるのではないか。もっとも、いま話題の選評をそのまま再録するわけにもいかないだろうから、そうなったら扱いをどうするのか、頭が痛い。なにもオレが悩むことはないんだけど。
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