« 2010年3月 | 2010年4月 | 2010年5月 »

4月13日(火)

 こないだの日曜日、早朝に目覚めた。その日は自宅でPATの予定で、競馬場に行く予定もなかったから、そんなに早く起きる必要はないのだが、目が覚めたものは仕方がない。で、居間にいくとテレビがつけっぱなしになっていて、ちょうど映画が始まるところだった。それが古い日活映画で『危いことなら銭になる』。若き日の宍戸錠が主演したプログラム・ピクチュアの一本で、共演は長門裕之と浅丘ルリ子。48年前の作品なので、以前に観たのかどうか記憶が定かでない。思わずそのまま最後まで観てしまった。

 どうして自宅のテレビでWOWOWの映画を観ることが出来るのか、そのときはわからなかった。いまごろ気がつくとは恥ずかしい。スカパーの映画が有料であることは聞いていたので、WOWOWの映画も有料だと思っていたのだ。ところが、WOWOWには1チャンネルしかなく(厳密には3チャンネルあることをあとで聞いたのだが、その説明が面倒なので、ここでは触れないことにする)、サッカーを観るためにWOWOWと契約すると、サッカーの試合中継がない時間には他の番組を放映しているから、それが映画ならその映画を観ることが出来るわけだ。つまり、我が家ではスペイン・リーグ中継を観るためにWOWOWになにがしかの代金を支払っているわけだが、そのおまけとして映画を観ることが出来るのである。スカパーのように、ジャンルごとに有料になっているわけではないのですね。

 で、その日は早朝からリーガ・エスパニョーラの第 31節、レアル・マドリード対バルセロナの試合があり(ようするにクラシコだ)、それを観ていた大学生の次男がテレビの電源を切らずにそのまま眠ってしまい、サッカー中継の次の番組である映画放送の時間になって、私がたまたま居間に入ったというわけである。あとで全部、知ったんだけど。

『危いことなら銭になる』は1962年の日活作品で、監督は中平康。4月のWOWOWは中平康特集をやっているようだ。原作はもちろん、都筑道夫の初期長編『紙の罠』である。当たり前のことだが、宍戸錠も長門裕之も浅丘ルリ子も、みんな若々しい。いま観るとそれほど凝った映画ではなく、乱暴な作りも目につくが(約半世紀前の作品だから、これは致し方ない。この間の日本映画の進歩と成熟というものがある)、しかし実はとても面白かった。

 途中で起きてきた次男が、これ、どこの国が舞台なの? と質問してきたのは、ちょうど街中を車が疾走するシーンのときだった。映画の舞台が横浜なので、その街中ロケも横浜でしたと思われるが、走っている車が全部いまはなき車ばかりで、とても日本とは思えないのだ。次男が誤解するのも当然である。

 その歳月の変化がとても面白い。映画俳優たちがみな若いことを含めて、昔はこうだったんだという発見が随所にある。古い映画に俄然興味が沸いてきた。いそいでWOWOWの番組表を引っ張りだして、今月はどんな映画をやるのかなと、ただいまチェックしているところである。

4月1日(木)

 講談社のPR小冊子「本」4月号を開いたら、高島俊男「漢字雑談1」というのが載っていて、読み始めたら思わず引き込まれてしまった。
 読売新聞の一面コラム「編集手帳」(二〇一〇・一・二〇)に、杉本深由起さんの詩集『漢字のかんじ』から、「涙」と題する詩が引いてあったと高島俊男さんは冒頭に書いたあと、その詩を引用している。

  涙 ながすときには
  ひっそりと 戸をしめて
  でも
  ながした 涙のぶんだけ
  戸のなかで
  大きな人になって
  戻っておいで

 この詩の意味が「編集手帳」子の説明を読むまでわからなかったと高島俊男さんは書いている。高島さんにわからないことを私がわかるわけがない。いったい何だろうと読み進む。すると、涙という字はサンズイに「戻」で、その「戻」は、「戸」と「大」から出来ている。だから「戸のなかで大きな人になって戻っておいで」となる。それが涙という『漢字のかんじ』だ、ということなのであるらしい、奇抜な発想ですね、と高島さんは書いている。
 読売新聞の一面コラム「編集手帳」に載ったのはどうやらその「涙」という詩だけであるらしく、『漢字のかんじ』という詩集に収められた詩がすべてこのように、漢字を取り上げ、その字を構成している部分に分解してその含意を感じ取っているものなのかどうかはわからないというが、思わずその詩集を買いに走りそうになる。

 しかし、実は興味深いのはその先なのだ。これは、高島俊男「漢字雑談」第1回の枕にすぎない。ここから「戻る」という字の由来について話が進んでいくのである。高島俊男のエッセイに今さら感心していてはばかみたいな話だが、これがまことに面白い。高島さんがなぜ「もどる」という言葉を必ずかな書きすることにしているか、なるほどなあと思うのである。
 この「漢字雑談」は4月号からの新連載だ。各社のPR小冊子を読むのは楽しいが、また来月から愉しみが一つ増えて嬉しい。

« 2010年3月 | 2010年4月 | 2010年5月 »