1月20日(木)最近買った本 

プールの底に眠る (講談社ノベルス)
『プールの底に眠る (講談社ノベルス)』
白河 三兎
講談社
840円(税込)
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いつか、虹の向こうへ (角川文庫)
『いつか、虹の向こうへ (角川文庫)』
伊岡 瞬
角川グループパブリッシング
500円(税込)
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潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫)
『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫)』
横田 増生
朝日新聞出版
924円(税込)
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歿―映画人忌辰抄
『歿―映画人忌辰抄』
浦崎 浩實
ワイズ出版
2,310円(税込)
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能は死ぬほど退屈だ―演劇・文学論集
『能は死ぬほど退屈だ―演劇・文学論集』
小谷野 敦
論創社
2,415円(税込)
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角のないケシゴムは嘘を消せない (講談社ノベルス)
『角のないケシゴムは嘘を消せない (講談社ノベルス)』
白河 三兎
講談社
1,008円(税込)
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(1)白河三兎『プールの底に眠る』(講談社/2009年12月)
(2)伊岡瞬『いつか、虹の向こうへ』(角川文庫/2008年5月)
(3)横田増生『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫/2010年12月)
(4)浦崎浩實『歿 映画人忌辰抄』(ワイズ出版/2010年12月)
(5)小谷野敦『能は死ぬほど退屈だ』(論創社/2010年11月)

 書店の新刊コーナーを歩いていたら、ノベルスのコーナーに出た。ノベルスの熱心な読者ではないのでそのまま通りすぎようと思ったら、視界の隅で呼んでいる本がある。どうしてオレを呼ぶんだろうと手に取ったのが、白河三兎『角のないケシゴムは嘘を消せない』(講談社ノベルス/2011年1月刊)。著者略歴を見ると、2009年、『プールの底に眠る』で第42回メフィスト賞を受賞しデビュー、とある。あっと思った。その『プールの底に眠る』も1年ほど前に買ったことがあるのだ。

 そのときもノベルスのコーナーで、なんだかオレを呼んでいる本があるなあ、なんなんだお前、とその『プールの底に眠る』を手に取り、気になるので購入したのである。購入しただけで未読だったが、二作続けて、呼び止めるとは尋常ではない。

 これも何かの縁だろうと『角のないケシゴムは嘘を消せない』を買ってきて、今度はすぐに読んだら、これが実に面白い。私、ラノベの面白さがわからないタチなので、これもそうだったらいやだなあと思っていたのだが(なんとなく本のたたずまいがそんな感じだったので)、全然ちがうのである。断然、この作家のファンになった。

 で、続けて、以前買った『プールの底に眠る』を読もうとしたら、いくら探しても出てこない。仕方なくまた買いに行ったのが㈰。まあ、そのデビュー作も面白かったからいいのだが、これからは全作を読もう。いま、白河三兎に注目だ。

 気がつくのに時間がかかるのが私の欠点で(いやもちろん、他にも欠点はあるのだが)、伊岡瞬も第四作の『明日の雨は。』が出るまでは読んだこともなく、その真価をまったく知らなかった。たまたま読んだらこれが素晴らしいのでびっくり。これは連作長編ミステリーだが、白河三兎と伊岡瞬の共通項はセンスがいいこと。ごつごつした小説が少なくないので、こういう作風に出会うとほっとするものがある。

 で、既刊3点を全部読むつもりで伊岡瞬の作品を買いに行ったら、入手できたのが第25回の横溝正史賞を受賞した『いつか、虹の向こうへ』だけ。つまりこの作家のデビュー作だ。すぐに読むつもりだったが、念のためにパソコンのハードディスクに入っている私の原稿を調べたら、なんとその『いつか、虹の向こうへ』評を書いていたので驚愕。読んでいたのかよ。

 2005年7月のサンケイ新聞に書いた新刊評で、私はこの伊岡瞬のデビュー作について次のように書いている。

「何から何まで常套といっていい。ところが細部がよく、人物造形がよく、筋運びも秀逸なので、どんどん惹きこまれていく。常套ではあっても、丁寧に書き込むことで定型を超えていくのだ。それに、良質のセンチメンタリズムともいうべきものが、物語に情感と余韻を与えているのも見逃せない。問題は、ここはスタートにすぎないということで、次作が勝負だろう」

 いやはや、すごい。「細部がよく、人物造形がよく、筋運びも秀逸」なのだ。その作品の内容はまったく覚えていないが、自分の書評原稿であるから、だいたいの推測はできる。こういう紹介の仕方をするということは、それが私好みであるということだ。やや、物語力に欠けるだけで、本質的には私好みの作家なのである。

 乱暴を承知で強引にわけたとき、「細部がよく、人物造形がよく、筋運びも秀逸」という要素をAとして、「物語が新鮮」という要素をBとするなら、両方を併せ持つのにこしたことはないものの、どちらかひとつならば、BよりもAを上位に私は考えるのである。したがって、この新刊評からは「絶対にこの作家には要注意だよ」というメッセージが伝わってくる。デビュー作から「細部がよく、人物造形がよく、筋運びも秀逸」な作家など、そういるものではない。物語などはあとからついてくるのだ。もっとも、要注意であることを、本人が忘れていたんでは仕方がないが。

『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』は文庫化に際して百ページを書き加えているが、そこにブックオフとアマゾンの関係が描かれているのが興味深い。なお、この本の解説(北尾トロ)が素晴らしい。この文庫本もさまざまなことを考えさせられるが、解説もまた刺激に富んでいる。

『歿 映画人忌辰抄』は、キネマ旬報連載の「映画人、逝く」をまとめたもので、そのディテールの濃さに圧倒される。やわなネタで申し訳ないが、1965年の『ぜったい多数』(中村登)の主演が田村正和だったとは知らなかった。曽野綾子の青春小説の映画化だが、そうか46年前のことだから、田村正和も若かったのか。

『能は死ぬほど退屈だ』は例によって小谷野敦本。これは買ってきただけで未読。いつになったら読むことが出来るだろうか。

1月11日(火)みんなの2010年解説文庫リスト

〔大森望〕
2月『屋上ミサイル』山下貴光/宝島社文庫
  『ミサイルマン』平山夢明/光文社文庫
3月『虐殺器官』伊藤計劃/ハヤカワ文庫JA
4月『死が二人を分かつまで』赤川次郎/集英社文庫
 『雪玉に地獄で勝算はあるか?』チャールズ・ストロス/はるこん実行委員会・私家版
5月『オサキ江戸へ』高橋由太/宝島社文庫
7月『死亡フラグが立ちました!』七尾与詩/宝島社文庫
8月『死なないで』井上剛/徳間文庫
  『遺品』若竹七海/光文社文庫
  『ストーンエイジCOP』藤崎慎吾/光文社文庫
  『カナスピカ』秋田禎信/講談社文庫
9月『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編1』藤子・F・不二雄/小学館・単行本
10月『読書会』山田正紀・恩田陸/徳間文庫
  『熱帯夜』曽根圭介/角川ホラー文庫
・編者解説(各編解題・序文を含む)
2月『不思議の扉 時をかける恋』大森望編/角川文庫
3月『不思議の扉 時間がいっぱい』大森望編/角川文庫
7月『量子回廊 年刊日本SF傑作選』大森望・日下三蔵編/創元SF文庫
  『NOVA2』大森望責任編集/河出文庫
9月『ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選』大森望編/創元SF文庫
10月『ゼロ年代日本SFベスト集成〔S〕ぼくのマシン』大森望編/創元SF文庫
  『ゼロ年代日本SFベスト集成〔F〕逃げゆく物語の話』大森望編/創元SF文庫
  『輝く断片』シオドア・スタージョン・大森望編/河出文庫
11月『きょうも上天気 SF傑作選』浅倉久志・大森望編/角川文庫
12月『NOVA3』大森望責任編集/河出文庫
  『原色の想像力』大森望・日下三蔵・山田正紀編/創元SF文庫

・ひとこと
「全部ひっくるめると26本。そのうち編纂または責任編集を担当した本が11冊(共編2冊含む)、単行本および私家版が各1冊あるので、純粋な文庫解説だけに限ると13本。2010年は短編の扉裏解説を100本くらい書いたので、解説原稿の枚数は過去最多かも。総計で400字×500枚くらい? ひたすら解説を書いていた1年でした」

〔杉江松恋〕
3月『38口径の告発』今野敏/朝日文庫
  『ぼくのキャノン』池上永一/角川文庫
4月『暁英 贋説鹿鳴館』北森鴻/徳間書店・単行本
  『出口なし』藤ダリオ/角川文庫
6月『クジラの彼』有川浩/角川文庫
  『Kの日々』大沢在昌/双葉文庫
  『てのひらの中の宇宙』川端裕人/角川文庫
7月『ふたり探偵』黒田研二/光文社文庫
8月『クマと闘ったヒト』中島らも&ミスター・ヒト/MF文庫
9月『災園』三津田信三/光文社文庫
10月『きのちのパレード』恩田陸/実業之日本社文庫)
11月『妖の華』誉田哲也/文春文庫

・ひとこと
「2010年に解説を担当したのは12本でした。19本も書いた2009年が多すぎたので、こんなもんかなという気もします。リストを振り返って自分でも驚いたのは、翻訳ミステリの解説を1本も書いていないことです。翻訳ミステリー大賞シンジケートの仕事をしているわりに、あまり縁がなかったですね。リストの中でもっとも感慨が深いのは『クマと闘ったヒト』の解説です。雑誌連載時から対談の構成をやっていたことから、一続きの仕事の締めくくりとしてもらったような気がします。自分の中には評論家的側面とライター的な側面がありますが、これはライターの側面をもっとも意識した解説でした」

〔池上冬樹〕
1月『白疾風』北重人/文春文庫
  『ドリーミング・オブ・ホーム&マザー』打海文三/光文社文庫・単行本解説に加筆2月『まんがら茂平次』北原亞以子/徳間文庫
  『冬こそ獣は走る』北方謙三/光文社文庫
3月『白の十字架』森村誠一/中公文庫
4月『最も遠い銀河』白川道/幻冬舎文庫
  『ラスト・チャイルド』ジョン・ハート・東野さやか訳/ハヤカワ文庫&HPB
  『夜の試写会 リディア&ビル短編集』SJローザン・直良和美訳/創元推理文庫
5月『鉄騎兵、跳んだ』佐々木譲/文春文庫
8月『黒い悪魔』佐藤賢一/文春文庫
  『サマータイム・ブルース』サラ・パレツキー・山本やよい訳/ハヤカワ文庫
9月『青春の守護者』森村誠一/角川文庫
10月『風の陣 風雲編』高橋克彦/PHP文庫
11月『ベスト・アメリカン・短編ミステリ』ジェフリー・ディーヴァー編/DHC
  『果てしなき渇き』深町秋生/宝島社文庫(新装版)
12月『鐚娥○○』花村萬月/集英社文庫

・ひとこと
「17冊であるが、そのうちの2冊は加筆版なので、実質は15冊。月1冊の12冊では淋しいが、月2冊の24冊では多すぎる。15冊がちょうどいいのかもしれない」

〔北上次郎〕
2月『渾身』川上健一/集英社文庫
3月『ごろつき船』大佛次郎/小学館文庫
  『ボックス!』百田尚樹/太田出版
4月『オルタード・カーボン』リチャード・モーガン・田口俊樹訳/アスペクト
  『私の男』桜庭一樹/文春文庫
  『大番』獅子文六/小学館文庫
5月『半九郎闇日記』角田喜久雄/小学館文庫
6月『昭和水滸伝』藤原審爾/小学館文庫
  『そこに日本人がいた!』熊田忠雄/新潮文庫
  『静かな日々』椰月美智子/講談社文庫
7月『捜神鬼』西村寿行/小学館文庫
8月『五番目の女』ヘニング・マンケル・柳沢由実子訳/創元推理文庫
  『音もなく少女は』ボストン・テラン・田口俊樹訳/文春文庫
  『回帰者』グレッグ・ルッカ・飯干京子訳/講談社文庫
9月『平成大家族』中島京子/集英社文庫
  『ワニのあくびだなめんなよ』椎名誠/文春文庫
10月『あぽやん』新野剛志/文春文庫

・ひとこと
「年によって解説の本数はずいぶん異なるもので、大森望は2008年20本、2009年12本、そして2010年が26本。つまり凹型。杉江松恋は2008年14本、2009年19本、2010年12本なので、こちらは凸型。池上冬樹は2008年18本、2009年25本、そして2010年が実質15本。みなさん、激しく変動している。私、北上次郎は2008年9本、2009年16本、2010年が17本。この中で楽しかったのは、椎名誠『ワニのあくびだなめんなよ』の解説で、このシリーズの解説をすべて沢野ひとしが書いていたとは知らなかった。この『ワニのあくびだなめんなよ』は「赤マント」シリーズ連載1000回突破記念ということで、いつものように沢野が解説を書いているのだが、そこにおまけとして私の解説がついた」