9月26日(火)
前日より体の具合は悪いが、休んでいられない状況なので、頑張って出社する。薬を飲むといくらか楽になるが、ボーっとしてしまうのが問題。風邪ひきに埼京線のラッシュは堪える。
しかし、会社に着いて一発目の電話で、いきなり現実へ連れ戻される。
「杉江くんに、悲しいお知らせをしないといけないんだ…。」と、とても懇意にしてもらっていた書店さんから電話が入った。
「えっ、どうしたんですか?」
「実はね、お店を閉めることにしたんだ、お客さんが全然入らないし、売上もあがらない…。早めにケリをつけて傷口が広がる前に閉める決断をしようということになったんだ。いろいろと協力してもらったのに申し訳ない。」
「……。」
寝耳に水とはまさにこのこと。風邪に閉店が一番堪える。この店長さんは今年の春まで大手書店で働いていた方で、僕はそのお店に顔を出していた。お互いサッカーファンということや住まいが近くということで、非常に親しくさせてもらっていた。お店に顔を出せば、お茶に誘って頂き、書店の事情や本の話を聞かせてくれた。また、お店のひと棚を「本の雑誌」コーナーにまでしてくれ、うちを応援してくれていた。それ以外にも自宅にお呼ばれし鍋や焼き鳥をごちそうになったこともあった。
そんな店長さんの口から「そろそろ独立して、仲間と本屋をやろうと思っているんだ」と聞いたのは今年の春先だった。この不況のなか、独立、それも本屋と聞いて僕は正直言って驚いた。大手書店でも売上を確保するのに難しい状況なのに、新規書店、それも小さな独立書店がやっていけるとは、なかなか考えられない。しかし、決断は店長さんがすることだし、それがその人の生き方なのだから口を出す問題ではないだろう。とにかく、僕はできる限り協力することを約束した。
それから店長さんは、物件探しや取引口座の開設、お店の商品構成やレイアウトなどなど飛び回るようにして動き回り、紆余曲折を乗り越え、7月の暑い日にお店は開店した。僕は開店当日ビールを持って駆けつけた。お店はきれいにレイアウトされ、本と一緒にアジア雑貨も置いてある面白い本屋さんだった。店長さんの趣味をふんだんに取り入れ、サッカー本も充実し様々なグッズも取りそろえていた。立地は確かに悪いが、定着すればかなり面白いお店になりそうだと僕は楽しみにしていた。
しかし、お店は現実に叩きつけられ、2カ月で閉店することになった。細かい事情は僕にはわからない。きっと同業他社から見れば、「甘かった」の一言で片づけられるのだろう。きっとこれが、ビジネスの現実なのだろう。それはわかっているけれど、とにかく今は淋しい。お店がなくなることも、この業界に対しても、とにかく淋しい。ガラガラになった棚を見るのは非常につらいので、入れていた本は宅急便で送り返してもらうことにした。店長さん、またいつか面白いことをやりましょう。今は、それしか言えない。