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1月12日(金)那須ブックセンター

 我が愛車「アカエイ」号を走らせ、那須ブックセンターさんへ。"本屋が地域の文化を育む、地域の読者が本屋を育てる"を合言葉に、出版社の経営者だった方が中心となり、本屋さん空白地帯の那須高原に昨秋60坪の本屋さんをオープンさせたのであった。

 開店の噂を聞いたときには出版業界で長年働いていたとはいえ、本屋さんはまったく素人であろう人が運営できるのかといさかか不安に感じていたのだけれど、なんと運営を任されたのは進駸堂や藤村書店で活躍された大ベテランの書店員Tさんだと聞き、これはまったくの大安心、それどころかTさんがいったいどんなお店を開けたのか、いや、そもそもずっとお会いしていなかったのでTさんに再会したい一心で、雪積もる前の那須高原へ車を走らせたのである。

 昨今の本屋さんオープンというと、「Title」に代表されるような"独立系"を想像されると思うが、那須ブックセンターはもちろんどこのチェーンにも属さない独立書店なのであるけれど、ある種の匂いのある"独立系"ではなく、まったく普通の本屋さんなのであった。

 ただし侮ってはいけない。そこにいるのはTさんなのだ。棚の動きを見ながら、平台の展開を考え、1時間でも2時間でもお客さんと話をし、必要とされている本やジャンルをどどどっと広げていくのである。例えば狩猟の本、例えば料理の本。先月、新潮文庫で一番売れたのは『ひと目で見分ける287種 野鳥ポケット図鑑』だそうだ。その売れ数はなんと20数冊。最初は棚一冊から始まり、あまりに棚で回転していくので面陳にしたところ、「これ便利なのよね」といってたくさんの人が買っていったそうだ。

 棚を通して会話する書店員さんは多いけれど、Tさんの場合は実際におしゃべりをして、本の好みなんてちっぽけなことだけでなく、人生そのものを抱きしめて、選書していくのであった。

 もちろん本屋さんは大変な状況なわけで、大変だからこの辺りだってこれまでなかったのだろう。しかしそこで何もせずにあきらめてしまっては、本屋さんは減っていく一方だ。今回のような志があって、もしそれで本屋さんが成り立つのであれば、そのノウハウを今後に活かしていけばいいのではなかろうか。それでダメだった場合は、では果たしてどうしたら本屋さんを運営することができるのか、また別の方法を考えればいいのだ。

 那須ブックセンターの正面は中学校なのであるが、オープンしてしばらく生徒さんがお店に顔を出すことはなかったそうだ。それは学校で禁止されているからでなく、本屋さんという場所をどう利用していいのかわからなかったかららしい。最近は少しずつ生徒さんも顔を出すようになり、Tさんはコミックのシュリンクをやめ、立ち読みでもいいから本屋さんっていう場所を知って欲しいと話していた。

 灯火はついたばかり。この灯火の下に人が集まり、きっとまた新たな灯火がどこかにつくだろう。

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