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12月7日(月)

  • 天離(あまさか)り果つる国(上)
  • 『天離(あまさか)り果つる国(上)』
    宮本 昌孝
    PHP研究所
    2,090円(税込)
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  • 天離(あまさか)り果つる国(下)
  • 『天離(あまさか)り果つる国(下)』
    宮本 昌孝
    PHP研究所
    2,090円(税込)
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 やっとというか、ついにというか、宮本昌孝『天離り果つる国(上・下)』(PHP研究所)を購入した。

 10月の半ばくらいだったか書店店頭で見かけ、その装幀の美しさ、タイトルのかっこよさ、そしてもちろん『藩校早春賦』や『ふたり道三』『夏雲あがれ』の宮本昌孝という著者への信頼からすぐさま購入すればいいものを、ここのところの自分の積ん読ぶりのひどさから上下巻というのに怯み、またいつものように未読のまま気づいたら文庫になっていたりするのではないかと危惧し、そっと平台に戻していたのだった。

 ただ、それから何度も何度も、やはりこの本から発せられる傑作の気に引き寄せられ、本屋さんでカバーを眺めたり、帯を読んだり、ときには冒頭を読んでみたりして、ああ、もう場所やお金のことは一切気にせず買ってしまえばいいのではないかと逡巡し、それでも本を手に取りレジに向かう決心がつかずにいた。

 しかしそれが先週、早朝に出社し、スタッフみなの机を拭いていたところ、編集の松村の机に置いてあった「本の雑誌」1月号のゲラを見つけ、何気なく読みだしたところ、縄田一男さんと深町眞理子さんが『天離り果つる国(上・下)』を今年のベスト1に推薦されていたのだった。もうこれは買わずにいられない、読まずにいられないとついに背中をどーんと押され、営業で向かった本屋さんで買い求めたのであった。

 本を読む楽しさと同じくらい本を買う楽しさというものがある。

 たとえばこの『天離り果つる国(上・下)』は、本を見かけてから実際に買うまでに一ヶ月以上かかっているわけだけれど、その間、本屋さんに行っては買おうか買うまいかと悩み、ついに書評で紹介されていたから買うかとか、今月ちょっと小遣い残ってるから買っちゃうおうみたいなことは、買い物の一番の喜びであり、幸福なのではなかろうか。

 近所でいえば三省堂書店さんの2階の文芸書売り場や4階の人文書売り場から、ついに買うと決断をした本を手にし、エスカレーターに乗って一階の集中レジに向かうまでの満たされた心というのは、実はもうその時点で十分本の価値に含まれているのでなかろうか。

 というわけで、宮本昌孝『天離り果つる国』(PHP研究所)800ページを超える上下巻を夢中になってほぼ2日で読了。購入を悩んでいた時間がバカらしくなるほどの面白さ。傑作中の傑作の小説を読んでいるときはこんな気持ちになるんだと久しぶりに思い出す。

 時は安土桃山、織田信長から豊臣秀吉、徳川家康と時代が流れる大状況と、その風雲な世の中で"天離る鄙の地"と呼ばれる飛騨白川郷の辺境の国がいかに自立して生き抜いていくかという中状況と、軍師・竹中半兵衛の愛弟子・七龍太と紗雪の恋愛の行方を追う小状況を、縦横無尽変幻自在で導く物語。読書の至福が詰まった一冊だ。

 ページをめくる手が止まらず、本を読んでないときも物語のなかにいるような気持ちになり、終わりが近くにつれていつまでも読んでいたいと寂しくなってしまった。

 それでもやっぱり物語の終わりはやってくる。最後の一行を読んで、本を閉じると、読書の幸福に包まれた。ああ、どうして2020年のベストを決めた後に読んだんだろうか。圧倒的にこれがベスト1だ。


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