第2回「いま読むべき! 時代の空気を感じるマンガ2009」

Page 4 マンガ文化の成熟が生んだ『GIANT KILLING』という視点

マンガ文化の成熟が生んだ
『GIANT KILLING』という視点

GIANT KILLING(1) (モーニング KC)
『GIANT KILLING(1) (モーニング KC)』
ツジトモ
講談社
596円(税込)
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日本のスポーツマンガの土台を作ったのは、言うまでもなく『巨人の星』、『あしたのジョー』。その土台の上に、ラブコメやギャグなど、さまざまな要素がかけ合わされ、バリエーション豊かに発展してきました。『ドカベン』、『リングにかけろ』、『1・2の三四郎』、『タッチ』、『キャプテン翼』などはその発展の礎となった作品です。しかしそれ以降、スポーツマンガの世界では目立った潮流の変化はないまま、時代は過ぎていきます。日本のスポーツマンガは「選手の物語」から逃れることはできなかったのです。

しかしその後、1996年の『クロカン』(三田紀房)、2003年の『ラストイニング』(作・神尾龍 監修・加藤潔 画・中原裕)など、野球マンガで監督を主人公とした作品が登場して、スポーツマンガにパラダイムシフトが起きました。"監督"が物語の主役に躍り出たのです。そして2009年のいま、ノリにノッっている"スゲェ監督マンガ"が、サッカーの監督を主人公に据えた『GIANT KILLING』(作・綱本将也 画・ツジトモ)です。

低迷する弱小プロサッカークラブ、ETUにイングランドのアマチュアクラブで"番狂わせ"を演出し続けた監督が就任。達海猛(たつみ・たけし)というその新監督は、実はETUのOBだった......。そんな導入からストーリーは始まります。

「主役は監督」、「監督同士の心理戦&ロジックバトル」、「控え選手の心理描写」、「巧妙に張り巡らされた伏線」など作品の魅力を語り出すとキリがありませんが、この作品の本質的な魅力は、本来マンガが持っていた躍動感と疾走感にあります。さらにその正体をひもといていくと「魅力的なキャラクター」、「エンターテインメント性あふれるストーリー」、「臨場感あふれるダイナミックな描画」など、そこにあるのはマンガが本来持っていた魅力そのもの。『GIANT KILLING』は、子どもの頃ワクワクしながらページをめくったときの気持ちを大人にも再び味わわせてくれるのです。

しかも技法としては現代ならではのスマートな面もある。「視点の寄りと引き」は最近のマンガ技法として定着した感もありますが、主人公の達海は、ボーッとして見えるつかみどころのない現代的なキャラクター。しかし時折周囲の人物の心に深く入っていきます。実際、監督という職業はまさに「視点の寄り引き」が要求される"ポジション"。とりわけ、サッカーというボールゲームにおいて、は、"引いた目線"――つまり俯瞰してフィールドを見る能力は欠かせないとも言います。『GIANT KILLING』は、マンガ文化の発展した現代だからこそ、サッカー文化が定着した2009年だからこそ、そして何よりいま作品がノリにノッているからこそ、読者にがっちり届く最上のエンターテインメント作品として人気を博しているのです。

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