第7回「“ジャンル”を築いた名作たち」

Page 2 『リングにかけろ』はボクシング版『巨人の星』である

『リングにかけろ』は『巨人の星』だ!

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前ページで挙げた『巨人の星』が影響を与えた作品は、直接・間接を問わなければ、無数にあると言っていいでしょう。『巨人の星』はマンガにおいて、「ライバル関係」、「挫折とその克服」だけでなく、「現実離れした必殺技」に象徴される、さまざまなスタンダードを生み出しました。

直系とも言えるスポーツマンガでの代表例といえば『リングにかけろ』(車田正美)。週刊少年ジャンプで、1977~1981年まで連載された作品で、僕が小学生だった頃に大ヒットしたボクシングマンガです。

『巨人の星』との共通項は多々あります。高嶺竜児と剣崎順という運命的ライバルの存在、貧しい家庭、主人公である弟を見守る姉(しかも後に主人公のライバルと結婚)など......。しかしやはり何よりの共通点は現実離れした必殺技。しかもオマージュ作品と思える『リングにかけろ』の方が遙かに恐るべき技を繰り出しているのです。

あまり詳しく書くのもネタバレになるので、ここでは技の名前のみ記しますが、ブーメランフック、ブーメランスクエア-、ブーメランテリオス、ウイニング・ザ・レインボー、ギャラクティカマグナム、ギャラクティカファントム、ハリケーンボルト、ジェットアッパー、スペシャルローリングサンダー――。

......。キリがありません。しかも作中では、敵方のキャラも含めるとこの数倍の種類にも及ぶ、とんでもないパンチが次々に繰り出され、そのほとんどが殺人的パンチ。というか、パンチを受けると試合会場の日本武道館の天井まで吹き飛ばされるという、まさに「食らったが最期」という拳が何十、何百と交わされています。しかも超人的タフネスを誇る登場人物は、そのたびに立ち上がる。実はこの作品もある影響を後の数々の作品に与えています。『巨人の星』で現実を飛び越えたマンガは、この作品で後の『ドラゴンボール』(鳥山明)などにつながる、"強さのインフレ"という新しい概念を生み出したのです。

そういえば当時、僕も主人公の高嶺竜児が使っていた、肉体強化アイテム「パワーリスト」を買ってもらった記憶があります。と思ったら、ゲキコミの関係者も2人が親にねだって買ってもらっていたそうです。ただし全員、作中に登場するものとは比べものにならないくらいの安物だったことまで同じだったのには、笑ってしまいましたけど。

現実のW杯にまで遺伝子を残した『キャプテン翼』

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とてつもない必殺技を持つスポーツマンガと言えば、『キャプテン翼』(高橋陽一)を外すわけにはいきません。しかもこのマンガはマンガ界にのみならず、リアル世界にまで大きな影響を与えた作品です。現在のサッカー界の隆盛は『キャプテン翼』が生み出したものと言っても過言ではありません。

ここ10年ほどのサッカーW杯――1998年フランス大会、2002年日韓大会、2006年ドイツ大会に出場した各国の代表選手には、幼い頃『キャプテン翼』を読んで育った選手が数え切れないほどいたのです。

日本代表で言えば、中田英寿、川口能活、小野伸二など、日本サッカーの歴史を変えた選手たちばかり。影響を受けたJリーガーは数百人単位にのぼるといいます。

世界に目を向けても当時のフランス代表のジネジーヌ・ジダンやイタリア代表のデル・ピエロ、フランチェスコ・トッティ、アンドレア・ピルロなど数え上げればキリがありません。現在、脂が乗りきっている世代の選手たちも同様で、ブラジル代表のカカやアルゼンチン代表のメッシなどにも影響を与えていると言います。

その内容はと言えば『巨人の星』や『リングにかけろ』と同様に、振り切りまくった必殺技のオンパレード。主人公・大空翼のオーバーヘッドシュートやドライブシュートあたりには、まだ現実感もありましたが、ライバルの日向小次郎のタイガーショットはコンクリートの壁を破壊し、ゴールポストに当たるとボールが破裂するという、まさに殺人的シュート。宙高く飛び上がる、立花兄弟の"合体シュート"とも言えるスカイラブハリケーンは、そのネーミングも含め『リングにかけろ』で香取石松の必殺技ハリケーンボルトのよう。体操選手を凌駕する身軽さでシュートを決めています。他にもゴールネットを突き破ったり、ボールの摩擦で焦げ臭くなるほどのシュートなど、現実にはあり得ない必殺技が次々に登場します。

近年、著者は「最近は、あまり突飛なものは描きづらい」と言っているようですが、これだけの名選手を生み出したエポックメーキング作なのですから、遠慮することなくガンガン新しい技を生み出していただきたい。それが日本サッカー発展の糧となるのです。

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