『痛風の朝』

著者:キンマサタカ:編

定価1650円(税込)

2021年8月25日発売

朝起きたらそこは激痛の国だった──

 

『下戸の夜』に続く〈マイノリティ・アンソロジー〉シリーズ第2弾!

痛友たち(痛風体験者)が自ら語り綴る爆笑痛風エッセイ集。

■四六判並製 ■196ページ
ISBN978-4-86011-461-9

〈目次〉

はじめに 6

第1章 痛風は人生だ

Tポイントとは ~日本全国食べ歩きとTポイント~ 田中邦和 16
思い出の痛風発作 沢田修吾郎 26
心配されない病 杉江由次 36
岸和田おっさん愚連隊 ~憧れのセレブ痛風~ 中場利一 42
痛風を知ろう 痛風のメカニズム 48

第2章 痛風は喜劇だ

インタビュー「痛風はどこか憎めない出来の悪い弟子みたいなもん」 錦鯉/渡辺隆 54
「私は変人と呼ばれた」痛風持ちの現役医師が教える痛みと上手に付き合うコツ 黒ひげ先生 68
痛風メンタル説 大竹聡 78
痛風男子に物申す 倉嶋紀和子 84
痛風の苦しみはなんと呼ぶべきか? 栁下恭平 90

第3章 痛風は文学だ

インタビュー「なぜ主人公を痛風にしたのか?」 黒川博行 100
痛風文学 すずきたけし 114
新青森発の痛風トレイン とみさわ昭仁 124

第4章 痛風は旅だ

インタビュー「尿酸値14.8がくれた淡い思い出」 樋口真嗣 134
アスリートと痛風 キンマサタカ 148
風が吹いただけで、おかしい 江部拓弥 158
痛風関係者座談会「やさしくてだらしない? 痛風持ちは魅力的な人ばかり」 166
痛風を知ろう知っておこうプリン体の多い食べ物たち 182
痛風Q&A 184

おわりに 192


〈はじめに〉

 朝起きたら足が腫れていた。病院に行っていつもの痛み止めを処方してもらう。
 今回はずいぶんと腫れたものだと足をさすっていると、長いこと世話になっているかかりつけの医師は「生活習慣を改めなさい」と渋い顔でカルテを記入した。

 はじめて痛風の発作を経験したのは12年前。
 発作はラブストーリーよりも突然にやってきて、一人の人間を心身ともにズタボロにして去っていった。発作から1週間は日常生活もままならなかった。

 それから長いこと、この病と付き合ってきた。
 そんな私を人々は冷たい目で見る。
 贅沢病と誤解されることも多い。
 すこし間違っていて、すこし正しい。

 痛風であると告白すると、皆がすこしだけ興味を持ってくれる。
「あいたた」と痛がると大喜びしてくれる。自業自得だからだ。痛風は人を笑顔にさせる力がある。
 酒場で足を引きずって歩いていると、「実は私も」と手を差し伸べてくれる人がいる。
 同志の存在は心強く、同じ苗字の人に出会ったような、妙な連帯感が生まれる。

 痛風を患ったことがある仲間たちは、それぞれの表情で痛風を語る。
 恐怖、懐古、後悔。
 過去の恋愛を話すように、なぜかさっぱりした顔をしているのが気になる。まるで他人事だ。だが、発作が出た瞬間、「くそが!!」と腫れ上がった自分の関節に向かって呪詛の言葉を吐く。
 そして、また忘れる。それを繰り返す。

 痛風は身から出たサビである。
 現世の業がいっぺんに関節にやってきて、一日中私を苦しめる。
 私は静かに痛がる。誰も同情をしてくれないから。
 そして、痛風について考える。
 
 私たちの人生が、痛風前と痛風後にわけられるとしたら。
 痛風を知ってからの方が、毎日が彩り豊かになった気がする。
 発作の気配がすると、背中を冷たい汗が流れる。
 強烈な痛みは、生きていることを実感させてくれる。
 いつ発作が出てもいいように薬を持ち歩く用心深さも身についた。
 アルコールやプリン体含有量が発作に直結すると知ってから、メニューを吟味して注文するようになった。
 背徳感という言葉を背負って酒場で飲む酒はとにかくうまい。
 一番の収穫は、たとえ痛みが出たとしても食べたい、飲みたいと思えるものに出会えたことだ。
 痛風は本当に大事なものを気づかせてくれた。

 ということは、あの痛みは、大人の成長痛なのかもしれない。きっとそうなのだろう。

 本書はおそらく本邦初、いや世界初の痛風アンソロジーである(違ったらごめんなさい)。
 医学的見地はさておき、各界の第一線で活躍する方たちが、痛風に関する思いを寄せてくれた。
 痛風について語ることが、こんなに面白くなるとは思いもしなかった。

 我が身を犠牲にして産み落とされた原稿たちは涙なしでは読めないだろう。だが、笑ってやってほしい。
 痛風にまつわるあれこれを楽しんでいただきたい。

 キンマサタカ

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