工学系女子のお仕事小説『安全靴とワルツ』

文=東えりか

 今年の7月、日本SFの重鎮、小松左京が亡くなった。11月29日には、都内のホテルで「小松左京を宇宙へ送り出す会」と題された大作家を偲ぶお別れ会が開かれ400名もの人々が集まった。

 2009年に第10回で終了した小松左京賞。その最後(第9回。第10回は受賞作なし)の受賞者、森深紅の2作目『安全靴とワルツ』が難産の末、発売された。デビュー作『ラヴィン・ザ・キューブ』はロボット工学にかかわる理系女子SFだったが、今回の作品は現実的な工学系女子のお仕事小説だ。

 今年30歳になる坂本敦子は大手の自動車メーカーの工場勤務。部品の納入ルートや数量、積み下ろし場所指定などを管理している。たったひとつのボルトの納入ミスも許されない。なぜなら自動車は人の命を預かっているからだ。

 そんな敦子に本社への出向が命じられる。これは正にビッグチャンス。世界戦略のためのチームに組み入れられた敦子だが、同じ会社でも勝手が違う。工場内で履いていた安全靴からハイヒールに履き替えて徐々に頭角を現していく。

 キャリアを重ね仕事に自信を持ち始めた30代の女性は、様々な分かれ道に遭遇する。選択するのは自分。成功も失敗も一身に受けて突き進む。数ある女性の成長小説でもエールを送りたくなる一冊である。

(東えりか)

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