第96回:朝倉かすみさん

作家の読書道 第96回:朝倉かすみさん

本年度、『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞、さらに次々と新刊を刊行し、今まさに波に乗っているという印象の朝倉かすみさん。40歳を過ぎてからデビュー、1作目から高い評価を得てきた注目作家は、一体どんな本を読み、そしていつ作家になることを決意したのか。笑いたっぷりの作家・朝倉かすみ誕生秘話をどうぞ。

その2「文通相手の薦めで文庫を手に取る」 (2/6)

ノックの音が (新潮文庫)
『ノックの音が (新潮文庫)』
星 新一
新潮社
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――高校も小樽だったんですか。

朝倉 : 札幌でした。その頃家は石狩で、30分くらいかけて通っていました。あ、高校生の時に星新一を読みましたね。

――学校で流行っていた、とかですか。

朝倉 : 文通していたんですよ。文通が流行った時代ってあるでしょ。私、流行りものはとりあえずやってたんです(笑)。文通相手に「本が読めない」って書いたら「これなら読めるよ」って教えてくれたのが星新一の『ノックの音が』だったんですね。それが面白くてそこから星新一を何冊も読みました。「セキストラ」という短編を覚えています。セキストラっていう、セックスよりもうんと気持ちよくなる装置があって、みんな男女交際をやめちゃうっていう(笑)。

――文通はどんな相手と? きっかけは。

朝倉 : 『中3コース』の文通コーナーに私が載ったんですよ。そうしたら全国からお手紙がきたの。私の本名は「香純」というんですが、中学3年生なんてちゃんと読めないんですよ。それで男だと思って手紙を出してくる人とかがいて。ちゃんと読めた人に返事を書こうと思ったら、一人しかいなかった。姫路の三宅くん。あっ! 三宅くん、『本の雑誌』を毎号読んでいて、私の本が紹介されていると「出てるよ」って、送ってくれるの! それで紹介されていないと「最近『本の雑誌』で取り上げてもらっていないけど大丈夫か」って手紙がくるの(笑)。

11人いる! (小学館文庫)
『11人いる! (小学館文庫)』
萩尾 望都
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おしゃべり階段 (SGコミックス)
『おしゃべり階段 (SGコミックス)』
くらもち ふさこ
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――えっ。今もまだ文通が続いているってことですか!?

朝倉 : 最近は年賀状のやりとりくらいだけど。

――三宅さんにお会いになったことは。

朝倉 : ないです。

――えーっ!!! じゃあ、どういうお姿の方かも分からないまま?

朝倉 : 年賀状に写真があるもの。結婚して奥さんができて、子供が生まれて...という変遷をずっと見てる(笑)。三宅くんは立派な人なんですよ。ホームレスに炊き出しをしたり、教会でオルガンを弾いたり。たぶん、会っても私とは話が合わないと思う(笑)。

――姫路でサイン会とかやればいいのに(笑)。で、三宅さんがきっかけで、星新一を読むようになって。

朝倉 : 高1か高2の頃ですね。それで文庫本というものをはじめて読んだんです。広義の読書でいうと、幅広く読むようになりました。増えるんですよね。小中学生の頃は学年誌と普通の漫画だけだったのが、高校生になると『セブンティーン』とか、どんどん増えていって。漫画はちょうど萩尾望都さんの『11人いる!』が流行っていましたね。くらもちふさこさんの『おしゃべり階段』も好きだった。でも、あとは好きな人がいてそのことばかり考えていました。もう一回会えないかなーとか。目先のことしか考えていなかったですね(笑)。

――高校卒業後は、短大に進学して。

朝倉 : 4年制に落ちて短大にいって、その頃は本は読んでいないですね。母校に図書館があることも知らなかった。何してたんだろう。何をやっていたのかも分からない。たぶん、何もしていなかったんだと思う。

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