第96回:朝倉かすみさん

作家の読書道 第96回:朝倉かすみさん

本年度、『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞、さらに次々と新刊を刊行し、今まさに波に乗っているという印象の朝倉かすみさん。40歳を過ぎてからデビュー、1作目から高い評価を得てきた注目作家は、一体どんな本を読み、そしていつ作家になることを決意したのか。笑いたっぷりの作家・朝倉かすみ誕生秘話をどうぞ。

その5「40歳で執筆再開」 (5/6)

マドンナのごとく (新風舎文庫)
『マドンナのごとく (新風舎文庫)』
藤堂 志津子
新風舎
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ほかに誰がいる (幻冬舎文庫)
『ほかに誰がいる (幻冬舎文庫)』
朝倉 かすみ
幻冬舎
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肝、焼ける (講談社文庫)
『肝、焼ける (講談社文庫)』
朝倉 かすみ
講談社
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ロコモーション
『ロコモーション』
朝倉 かすみ
光文社
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玩具の言い分
『玩具の言い分』
朝倉 かすみ
祥伝社
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ともしびマーケット (100周年書き下ろし)
『ともしびマーケット (100周年書き下ろし)』
朝倉 かすみ
講談社
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――小説執筆を再開したのは。

朝倉 : 結婚した年に、創作教室の講師の先生が亡くなったんです。その先生は藤堂志津子さんに『マドンナのごとく』を書かせた人だったんです。彼が私に、君も藤堂さんみたいになれ、ってずっと言っていたんです。でもありえないし、笑っていうこときかなかったんです。先生が亡くなった時、私は何もしていないし結婚する時に小説も1冊も持ってこなかった、お料理の本とかそんなもばっかりだった、と思ったら、とても悪いことをしているような気がして。それで、40歳の時にまた書き始めました。

――先生は才能を見出していたんですね。

朝倉 : いや、何人かに同じことを言っていたらしい(笑)。それで最初に書いたのが『ほかに誰がいる』でした。その頃から、毎年応募しましたね。どこかに何かを。

――その時期は、読書はどうでした。

朝倉 : 書いている間は読むのが怖かったですね。影響を受けるような気がして。影響受けたって、そんなうまく書けるわけないのに(笑)。

――03年に「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞、04年に「肝、焼ける」で小説現代新人賞と、続けて受賞されて。

朝倉 : ちょうど自信がある時期で、毎月どこかに送っていたんです。8月の締め切りのものがあれば、今月はここに送ろう、というような。私、自分が書いているものが純文学かエンタメかも分からなくて、ぐちゃぐちゃでやっていたんですけれど、北海道新聞文学賞の選評に「近年まれにみる達者な~」ってあって。「達者」という言葉があるということは、私はたぶんエンタメのほうが強いんだなと思って、それからはエンタメ1本でいこうと思いました。

――そう分析して認識できるのがすごい。

朝倉 : 年だものー。

――でも、ぱっとエンタメにシフトチェンジできるものなんですか。

朝倉 : 『小説すばる』、『小説新潮』、『小説現代』、『オール讀物』なんかを、毎月隅から隅まで読みました。それは1年ぐらい続けましたね。そのあいだに「肝、焼ける」を書いたんです。

――デビューが決まった後は、本は読めました?

朝倉 : その頃は読んでいました。宮部みゆきさんとか。リーダビリティの高いもの、どんどん読者を引っ張っていくものを読むようにしていました。「新人賞を取った時は、受賞作として載るけれど、次に載る時は新人だからといっても、読む人は宮部みゆきの小説と同じように読むんだ」って言われたんです。新人だからといって、甘く読んでくれるわけじゃないって。それで、じゃあ宮部さん読みます! って言って(笑)。

――そういう目で読むと、いろいろ発見がありそうですね。

朝倉 : どんどんページをめくらせる、それはすごいことだなって思いました。宮部さんは複雑なことでも、分かりやすく書いてあるんですよ。

――その後、ご自身の執筆もお忙しくなったと思います。今、次から次へと新刊を出されていて。

朝倉 : 依頼を断ることができなかったんです。待ってもらう、ということができない。だって、「今は忙しい」と言って「じゃあ君は要らないよ」って言われたらどうしよう、って。すぐには書けなくても待っていてもらえるような作家になればいいだけの話なんですが、デビューしてからなぜか自信がなくなっていって。それで忙しくなってしまったけれど、他の人は軽々とできるのかなあって思う。私にもうちょっと体力があれば、もうちょっとスムーズにできるのかも、と思います。

――だって季刊か月刊か? と思うくらい新刊が次々と出ていますよね。今年だけで一体何冊なんだっていう。今すでに単行本は『ロコモーション』、『玩具の言い分』、『ともしびマーケット』、『静かにしなさい、でないと』...。あと文庫も何点か。

朝倉 : 最初に言われたんです。本屋でいつも平台に自分の本があるようにしたら、名前を覚えてもらえるよって。誰だって一時期の浜崎あゆみみたいに連発する時期があるんだって(笑)。

――書くのははやいのですか。

朝倉 : 切り替えが遅いんです。ひとつの小説を1週間書いた後に、別の小説に移ろうとする時、あれはこういう風に書いたけど、これはこういう風に、と思っていても、書き始めると「あれ?」ということになる。それで、切り替わるのを待ってどんどん遅くなって、最後はどうしようもなくなって。そうしたら壁がうにゃうにゃって見えるようになるんです。

――それ、疲労なんじゃないですか。

朝倉 : よくないんですよねえ、ちょっとゆっくりしよう、と思いました。

――本は読んでますか。

朝倉 : 最近は外国文学が多いんです。ブックガイドを読んだりして、誰かが薦めているものを読みますね。日本の小説を読むのが辛いんです。こんないいもの書いているんだ、みんな才能あるなあって思っちゃうから。最近読んだものでは『灯台守の話』や犬が人間になる『カルメン・ドッグ』が面白かった。あ、サリンジャー。新訳の『ナイン・ストーリーズ』を読みました、3回読んだ。私、『ライ麦畑でつかまえて』がダメだったんですよね。

――朝倉さん、ダメそう~(笑)。

朝倉 : だけど『ナイン・ストーリーズ』は面白かった!! あとは『ティファニーで朝食を』を、去年だったかな、何回も読みました。

灯台守の話
『灯台守の話』
ジャネット ウィンターソン
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カルメン・ドッグ
『カルメン・ドッグ』
キャロル エムシュウィラー
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ナイン・ストーリーズ
『ナイン・ストーリーズ』
J.D.サリンジャー
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ティファニーで朝食を (新潮文庫)
『ティファニーで朝食を (新潮文庫)』
トルーマン カポーティ
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