第96回:朝倉かすみさん

作家の読書道 第96回:朝倉かすみさん

本年度、『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞、さらに次々と新刊を刊行し、今まさに波に乗っているという印象の朝倉かすみさん。40歳を過ぎてからデビュー、1作目から高い評価を得てきた注目作家は、一体どんな本を読み、そしていつ作家になることを決意したのか。笑いたっぷりの作家・朝倉かすみ誕生秘話をどうぞ。

その6「最近の読書、執筆の時に意識すること」 (6/6)

静かにしなさい、でないと
『静かにしなさい、でないと』
朝倉 かすみ
集英社
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田村はまだか
『田村はまだか』
朝倉 かすみ
光文社
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――最近、東京にも仕事場を借りたそうですね。その理由は...。

朝倉 : 体力がないので、北海道との行き帰りが大変で。それで部屋を借りました。私、一人暮らしってしたことがないんですよ。部屋を借りる経験もはじめてなんです。冬に雪が降らないところに住んでみたかった、というのもあります。あと、よく北海道を書く作家と言われるんですが、特にこだわってはいないんですよ。知っている場所を書いているから北海道になるというだけで。以前地方から出てきて東京に住んだ、っていう話を書いたことがあるけれど、こういう感じなんだなって改めて思いました。東京でもつい、天気予報は札幌のを見ちゃうんですよね(笑)。

――さて、新刊は『静かにしなさい、でないと』。こちらは短編集ですが、短編のタイトルは「静かにしなさい」で、本全体のタイトルに「、でないと」がついている。朝倉さんの小説は、いつもタイトルが面白いですね。

朝倉 : 『田村はまだか』以降、編集者が「頑張りましょう!」って言うの~!大変なのー(笑)。

――「肝、焼ける」からしてすでにキャッチーでしたからね。さて、今回の短編集はもちろん朝倉さんの作品にはいつも、ままならない自意識や、自分の身体に対する感覚が鋭敏に描かれているという印象があります。これは意識されているのですか。

朝倉 : 身体感覚というのは、最初から意識しています。体の反応には負けるだろうって思っているんです。例えば精神の病でお水がたくさん飲みたいと思い続ける人がいるとするでしょう。でも飲みたいっていう心の力だけではダメなんですよ。飲んでいるうちに血が薄くなって倒れてしまう。身体が反応することって、バカにできない。だから、フィジカルに書くということはデビューの時から決めています。自意識に関しては、ここ数年で気になっているところですね。「~キャラ」とか「~デビュー」とか、 違う自分を作っていく。そういうことをやっている人がとても多くなってきているような気がするんです。「空気を読む」とかいう言葉も流行って、いわゆる「素」で発言することが難しくなっているんじゃないかな、って。心の中で思うことすら、今はできないんじゃないかって思う。ハンドルネームを使っていても、それが浸透していくとそのハンドルネームのパーソナリティができあがって、本当のことが言えなくなる。大変だろうなって思うんです。

――『静かにしなさい、でないと』でも、自分像にとらわれるちょっとイタい人たちが出てきますよね。でも、可笑しみみたいなものがあって、愛すべき人たちにも感じます。

朝倉 : 間違った人のほうが面白いの。私が間違いがちだから。自分のことなんて一番分からないしね。人って、私も含めて、自分で思っていた自分と、人からこうだねって言われるのと、まったく違ったりするものですから。

――さて、今後の刊行予定を教えてください。

朝倉 : マガジンハウスから11月に新刊が出ます。

――どわっ! 年内にさらにもう1冊でるんですか!

朝倉 : 年末の話だから、年内に出さないといけないのー! それと今エッセイを書いていて、それが来年出る予定。あ、2月には書き下ろしが出ますねえ...。どんだけだよ、って感じですよ。

――また壁がうにゃうにゃ見えたりしないようにご注意を!

(了)