
作家の読書道 第100回:本谷有希子さん
演劇界で活躍する一方、人間の可笑しみと哀しみのつまった小説作品でも高く評価されている本谷有希子さん。フィールドをクロスオーバーさせて活躍する才人は、一体どんな本に触れてきたのか? そのバックグラウンドも気になるところです。自意識と向きあう一人の女の子の成長&読書物語をごらんください。
その2「枕を教室に持ち込む」 (2/5)
――自分で文章を書くことは。
本谷:まったく。小説や文章に携わることになるなんて全然思っていませんでした。感想文を提出するのも、意味が分からないから嫌だって反抗していたタイプ。評価されるのが嫌だったんですよ。なんで自分が抱いた感想にいい悪いがあるんだって、先生に楯突いていました。
――先生の反応は。
本谷:問題児扱い。高校でも教室に枕を持ち込んで全授業寝る、という手段に入っていました。本や漫画も読んでいましたね、授業中に。
――それはどういう意思表示だったんでしょう。
本谷:先生の権威、みたいなものが嫌だったんです。人間として魅力的かどうかが私の中では大事だったんですけれど、それもないのに生徒を叱っている理不尽な感じが納得いかなくて。嫌な子供です(笑)。図書室には通っていたけれど、古い別校舎にあったので他にあんまり行く人もいなくて、周りのイケてる女子たちに「本谷、図書室なんか行くんだー」って言われたのを覚えています。本当はイケてる女子たちのグループにすごく入りたかったんですよね。まわりに本を読んでいる人もいなかったし、自分の属性がどこにあるか分からなかった。
――部活は演劇部だったんですよね。それは。
本谷:演劇にはちょっと興味があったんですが、恥ずかしくて中学の頃は入れなくて。高校の時は友人に誘われて入りたくないのに仕方なく入った、というフリをして入部しました(笑)。でも結局恥ずかしくて、演技はちょっとしかやらずに、音響や照明や演出とかをやってました。
――小学校の頃はムードメーカーだったのに、立ち位置が変わっていきましたね。
本谷:仮面がどんどん剥げていったんです。小学生の頃は自分でもハツラツとした運動少女と思っていたのが、中学生の時に「ん? 私本当にハツラツとしているの?」と思い始め、高校から陰陽の陰の部分が多くなっていって。だんだん自意識が激しくなっていって、表舞台には出ないようになったんです。
――当時、もし99年で世界が滅びなかったら、どうなりたいと思っていたんでしょう。
本谷:有名人になりたいって思っていました(笑)。そこが私の不純なところですよね。そもそもものを作る欲求の原点がそれなんです。