第100回:本谷有希子さん

作家の読書道 第100回:本谷有希子さん

演劇界で活躍する一方、人間の可笑しみと哀しみのつまった小説作品でも高く評価されている本谷有希子さん。フィールドをクロスオーバーさせて活躍する才人は、一体どんな本に触れてきたのか? そのバックグラウンドも気になるところです。自意識と向きあう一人の女の子の成長&読書物語をごらんください。

その3「サブカルが分からなかった!」 (3/5)

コインロッカー・ベイビーズ(上) (講談社文庫)
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村上 龍
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神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)
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村上 春樹
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家族八景 (新潮文庫)
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筒井 康隆
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――そして、高校卒業後は東京へ。松尾スズキさんの授業に通っていたんですよね。

本谷:演劇学校というか、ワークショップみたいなものですね。でも演じるほうは1年で挫折したんです。自分はなれないなと思って。カッコ悪いと思う台詞を言いたくないんですよ。役者はいい芝居を作るために演技するのに、私は自分をよく見せたいという邪念を打ち消せなかった。それで「演技中にどこに視点あるの?」と聞かれて「客席の一番後ろにあります」と言ったら、「それは演出家の視点だね」と言われてなるほど、と思って。

――そこから演出家になろうと?

本谷:そうですね。でも辞めたあとの1年間はぶらぶらしていました。ウエイトレスのバイトとワープロで小説と台本とコラムを書くことと、近所の図書館に通うだけの毎日で。

――東京に来てからの読書生活は。

本谷:最初の1年間は、完全にサブカルチャーの中に入っていました。サブカルを知っている人=イケてる=エラい、という感じだったので、そうした漫画や映画ばかりで。松本大洋、よしもとよしとも、赤塚不二夫、『ガロ』系の人たちとか。ヴィレッジヴァンガードに行ったらあるようなものを読んでいました。でも知っていたいがために読むという感じ。サブカルの小説ってあまりなかったので、この時期は小説とは距離がありました。2年目の時には図書館に通っていたんですけれど、いっぱい借りて、読まないまま返す本も多かった(笑)。その中でも村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』とか村上春樹さんの『神の子供たちはみな踊る』は覚えています。あとは中学時代からたしなんでいた筒井康隆さん。

――筒井さんで好きな作品は。

本谷:『家族八景』、『七瀬ふたたび』、『エディプスの恋人』の三部作がめちゃめちゃ面白くて。振り返ってみると、やっぱり自分が好きなものってエンタメなんですよね。『ガロ』とかは分かるような分からないような、自分の中に入れようとしたけれども、あんまり血肉にはなりませんでした。お洒落になろうとして一生懸命『ノルウェイの森』を分かろうとしたけれど、「分っかんねーな!」と思っていたし(笑)。背伸びして分かろうとしたけれどよく分からなかった、というものがいろいろあります。

――背伸びするというのは、若者が通る道ですよ。

本谷:分かるって言わないといけないムードがあるんですよね。なので私は今、サブカルのふわっとしたものはよく分からなかったよ! ということを声高に言いたいんです(笑)!

――でも、その頃にいろいろ読まれたわけですか。

本谷:純文も、読んでなくは......。日本の小説家だと町田康さん、阿部和重さん。海外でもこれを読んでいたらイケてるだろうという人を読みましたね。ポール・オースターとか、マーガレット・ミラーとか、カフカ、カポーティ、『トレインスポッティング』の原作者のアーヴィン・ウェルシュとか(笑)。人から教えてもらって読む状態でした。ああ、あとは戯曲ですね。戯曲に関しては国内も海外のものも、手に入るものは頑張って読んでいました。

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