
作家の読書道 第100回:本谷有希子さん
演劇界で活躍する一方、人間の可笑しみと哀しみのつまった小説作品でも高く評価されている本谷有希子さん。フィールドをクロスオーバーさせて活躍する才人は、一体どんな本に触れてきたのか? そのバックグラウンドも気になるところです。自意識と向きあう一人の女の子の成長&読書物語をごらんください。
その4「戯曲も小説も同時にスタート」 (4/5)
- 『ノーライフキング (河出文庫)』
- いとう せいこう
- 河出書房新社
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- 『マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮 (ハヤカワ文庫JA)』
- 冲方 丁
- 早川書房
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- 『このミステリーがすごい! 2010年版』
- 宝島社
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- 『賭博黙示録カイジ(1) (ヤングマガジンコミックス)』
- 福本 伸行
- 講談社
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- 『狂人失格 (本人本)』
- 中村うさぎ
- 太田出版
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- 『通訳ダニエル・シュタイン(上) (新潮クレスト・ブックス)』
- リュドミラ・ウリツカヤ
- 新潮社
- 2,160円(税込)
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――その頃、台本や小説も書き始めていたわけですよね。自分も書く仕事をやっていこうと思ったわけですか。
本谷:2年で帰ってこいって言われていたんですが、1年学校に通ったので、あと1年しかない。どんどん時間が過ぎていく中で、自分は役者じゃないと分かったし、資格もないし高卒になっちゃったし、ヤバイ! となりまして。まあ、そうなるとは薄々分かっていたんですけれどね(笑)。安定して生きいく道を選ばなかったわけですから。その頃、ワープロを買ってもらったんですが、一人でやれることというとワープロを使った表現しかなかったんです。それで戯曲、小説、コラムを書いていたんですが、小説を応募するということは知らなかったんです。コラムは応募して落ちたりしてました。それで、書いた小説や台本は友達に見せるしかない。演劇系の友達に小説を見せると「本谷は小説書かなくていいよ」と言われ(笑)、台本を見せたら「面白い、やろう」となって。今、たまたま縁があって演劇をやっている人が小説を書いている、という印象があると思うんですけれど、こうして原点に返っていくと、19歳の時に戯曲も小説も同時にスタートしているんだなあって思いますね。
――2年が過ぎて、実家から帰って来い、とは言われなかったんですか。
本谷:そこはズルズルしました(笑)。ぐずぐずさせているうちに、2000年に「劇団、本谷有希子」を旗揚げしました。それが21歳の時ですが、奇跡に近いですよね。小劇場の世界に入って食べられるようになるなんて。
――その頃読んでいた本は覚えていますか。
本谷:友達に薦められて銀色夏生さん、桐野夏生さん、山本文緒さんを読みました。確かいとうせいこうさんの『ノーライフキング』とかも薦められた。角田光代さんとか、向田邦子さんとか、山田詠美さんとか、柳美里さんとか、女性作家も興味が出ましたね。海外文学には手が伸びなかった。ナビゲーターがほしかったけれど、まわりに本を読んでいる人がいなかったし、だからといって自分が調べようとしても大海原すぎて。本格的に小説を読むようになったのは、ちゃんと小説を書くようになってからです。
――ちゃんと、というのは。
本谷:19歳の時に書いたものを劇団のホームページになんとなくアップしていたら、編集者に小説を書きませんかと言われて。それが23歳の時です。それで、これはいろんな小説を読まんとな、と思って、同世代、同時期の作家全般をぐるっと読みました。とりあえず綿矢・金原コンビから入って(笑)、乙一さんも読むようになって、あとは冲方丁さんの『マルドゥック・スクランブル』も読んだし...。そうか、ちょうど『ファウスト』が刊行された頃だったんです。それで『ファウスト』系の作家をなんとなく意識するようになりました。舞城さん、佐藤友哉さんとか西尾維新さんとか滝本龍彦さんとか。編集者の人が教えてくれて海外文学も一応読みました。フラナリー・オコナー、デヴィッド・ロッジ、ナボコフ...。あ、ナボコフを読んで、私は海外文学を読もうとしなくなったんです。難しー!と思って(笑)。
――影響をもらっているな、と思うのは。先ほどエンタメのお話もありましたが。
本谷:小学生の頃に読んだ岡田あーみんさんの『お父さんは心配症』の、はちゃめちゃなセンスというか、バカバカしいこと、くだらないことが私は好きなんだ、ってことはずっと思っていました。当時さくらももこか岡田あーみんかに分かれていたんですけれど、ほとんどの人はさくらももこ派だったんです。でも私はちょっとリリカルなものより、はてしなくバカなほうが好きだなって思っていました。『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』の富樫先生も影響をもらっていると思います。それと、ジョージ秋山作品の業の深さ。漫画ばっかりだな(笑)。あとは推理小説やホラー小説の系統。自分のベースはエンタメというベタなものであるなあとは思います。演劇もそもそも演芸ですから、楽しませてなんぼというところがあるし。エンタメといえば『このミステリーがすごい!』は毎年お世話になっております、読者として。平山夢明さんもそれで知ったんですよ。
――ああ、平山さんの新作『DINER』、本谷さんオビに推薦文を書いてますね。
本谷:私が作り手として親近感がわくのは、しっかり存在がくっきりしている人なんです。好きだなと思う人に共通しているのは、動物っぽい人。平山さんもそうだし、西原理恵子さんもそうだし。漫画の『賭博黙示録カイジ』も人間というものが入っているなと思う。ジョージ秋山先生も尊敬してしまう。難しいこと、教養みたいなものが入っているのが......まだ自分には向かないんですよね。確かに興味あるけど、私にも分かる言葉で書いてくれる人を信頼してしまいます。あ、中村うさぎさんも目をそらさない人ですよね。『狂人失格』は一番最近読んだ小説ですが、自分をごまかしていない。みっともないところもさらけ出してくれる人だなあ、と。
――最近は、まわりに本を読む人も増えたのでは。薦めあったりしないのですか。
本谷:文学界にそこまで知り合いがいないんです。知っているのは演劇関係の前田司郎くん、岡田利規くん、戌井昭人さんとかだし。でも先日、豊﨑由美さんのトークイベント「読んでいいとも! ガイブンの輪」に参加したんですね。こんなに外国文学を読んでいないのに出ちゃったという。それで豊崎さんにジョナサン・キャロルを薦められて読んで、おもしろいんだなあって思いました。『死者の書』とか『パニックの手』とか。トム・ジョーンズとか。リュドミラ・ウリツカヤの『通訳ダニエル・シュタイン』とか。
――ナボコフ以来のガイブンですね。
本谷:ナボコフが頭に入ってこなかっただけななんだと分かりました。なんでだか全員がああいう文章を書くって思い込んでいたんです(笑)。
――一日のなかで、読書する時間は決まっていますか。また、小説以外でよく読んでいるのは。
本谷:寝る前の1時間と、あとは電車の中。わりと新書も読みますよ。近所のコンビニが、すごく本がおいてある店なので、それでなんとなくタイトルに惹かれたものを買うという、"なんとなく買い"で。