第115回:高野和明さん

作家の読書道 第115回:高野和明さん

膨大な知識と情報と現実問題を織り込んだ壮大な一気読みエンターテインメント『ジェノサイド』が話題となっている高野和明さん。幼稚園児の頃に小説を書き始め、小学生の頃に映画監督となることを決意。そんな高野さんに衝撃を与えた作品とは? 小説の話、映画の話、盛りだくさんでお届けします。

その5「桜庭一樹作品に打ちのめされる」 (5/6)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない  A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)』
桜庭 一樹
角川グループパブリッシング
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幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)
『幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)』
山田 風太郎
筑摩書房
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列外の奇才 山田風太郎
『列外の奇才 山田風太郎』
角川書店(角川グループパブリッシング)
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6時間後に君は死ぬ
『6時間後に君は死ぬ』
高野 和明
講談社
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マスターズオブライト―アメリカン・シネマの撮影監督たち
『マスターズオブライト―アメリカン・シネマの撮影監督たち』
デニス・シェファー,ラリー・サルヴァート
フィルムアート社
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――小説家デビューしてから読書生活は変わりましたか。

高野:乱読のままですね。宮部みゆきさん以降の衝撃は、2008年に桜庭一樹さんの本を読んだこと。打ちのめされました。いちばんは『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』。あの世界に入り込まされちゃう。子供の頃から本を読み、宮部さんや筒井康隆さんといった方々の作品に触れて、自分なりの小説観みたいなものを作ってきたわけですが、自分の基準外にあって、しかもなおかつすごい作品というものにはなかなかめぐり合わない。ようやく出会ったのが桜庭作品でした。読み終わってから、あまりに呆然として道を歩いていて、車に轢かれそうになったくらい(笑)。

――読む本はどのように選んでいるんですか。

高野:本屋さんに行って目についたものを選んでいます。ちなみに桜庭さんの場合は、出版界の集まりで紹介していただいて、ご挨拶だけしたんです。その1週間後くらいに本屋に行って、あ、桜庭さんの本だ、と思って買いました。

――その後、小説だけでなく映像も絡んだお仕事もされていますよね。

高野:師匠の岡本監督が山田風太郎さんの『幻燈辻馬車』を映画化しようとしていて、その脚本の仕事をいただいたのが2003年でした。でも監督さんが亡くなってその映画はできませんでした。この時書いた脚本は、『列外の奇才 山田風太郎』という本に収録されています。それから2007年に『6時間後に君は死ぬ』のドラマ化の話をいただいて、自分が脚本と監督をやりたいとダダをこねたんです(笑)。そうしたら脚本は問題なくOKが出て、さらに番組全体の総合演出をベテラン監督に任せるという条件で、2話あるうちの1話を演出できることになりました。ついに監督デビューです。総合演出のほうは小中和哉さんにお願いしました。20歳すぎの時、小中さんの撮影現場に応援スタッフとして行ったことがあって、他の作品もビデオで観ていたんです。この時、小中作品から得たファンタジーの感触が、『6時間後に君は死ぬ』の作風につながっているんですね。なので総合演出は、小中さん以外には考えられませんでした。それから、髙間賢治さんという名カメラマンに撮影監督をお願いしました。髙間さんが書かれた『撮影監督ってなんだ?』という本で、映画撮影についてすごく勉強させていただいていたんです。それともう一冊、髙間さんが翻訳を担当された名著『マスターズ・オブ・ライト』ですね。日本の映画界では、「撮影」という職種と「撮影監督」という職種は指しているものが違う。この撮影監督システムというものをアメリカから導入されたのが髙間さんなんです。

――どういうシステムの違いがあるのでしょうか。

高野:従来の日本のやり方は分業制で、撮影技師と照明技師が別にいるんです。本場のアメリカやヨーロッパでは撮影監督が照明も監督する。欧米では、光を操って被写体を描き出すのが撮影者の仕事なんですが、日本ではこれを2人がかりでやることになってしまう。向こうの撮影監督からすれば、理解不能な分業制になっているんです。

――監督や脚本の仕事は小説の執筆に何か影響はありましたか。

高野:『6時間後に君は死ぬ』が小説、脚本、演出までしたはじめての経験だったのですが、あらためて小説と映画の違いがよく分かりました。映画が得意なこと不得意なこと、小説が得意なこと不得意なこと。あるいは、それぞれにとって不可能なこと。さらに、小説と映画の垣根をとっぱらって、物語そのものに直接触ったような不思議な感覚もありました。映画と小説を両方やっていったら、相当に強くなれると肌で感じましたね。

――映画やドラマだと何分かの間隔で大きな事件を入れるといいと言われている、というのはよく耳にしますが。

高野:日本の2時間ドラマでは、9時スタートだとすると9時20分までに殺人が起きて、9時50分くらいにもう一人死んで、さらに10時台前半にもう一人死ぬとよい、とされています(笑)。ハリウッドではよく3部構成にするといいますね。ただ、それが正しいわけじゃないんですね。学生の頃から気に入った映画については縦軸に時間をとり、その横に場面ごとの内容を書き出して分析しているんですが、そうすると伏線とか構成、時間配分などが一発で分かる。その作業で感じるのは、傑作ほど機械的に区切られていないということです。『エクソシスト』も、冒頭のイラクの場面だけで10分近く使ってます。普通は、あんなにプロローグを長くしたりはしません。傑作ほど自由にやっている気がします。

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