第115回:高野和明さん

作家の読書道 第115回:高野和明さん

膨大な知識と情報と現実問題を織り込んだ壮大な一気読みエンターテインメント『ジェノサイド』が話題となっている高野和明さん。幼稚園児の頃に小説を書き始め、小学生の頃に映画監督となることを決意。そんな高野さんに衝撃を与えた作品とは? 小説の話、映画の話、盛りだくさんでお届けします。

その6「話題作『ジェノサイド』」 (6/6)

文明の逆説―危機の時代の人間研究 (講談社文庫)
『文明の逆説―危機の時代の人間研究 (講談社文庫)』
立花 隆
講談社
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幽霊人命救助隊 (文春文庫)
『幽霊人命救助隊 (文春文庫)』
高野 和明
文藝春秋
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――1日のサイクルは決まっているんですか。

高野:作品に取り掛かると、眠れなくなるんです。布団に入って5時間くらい眠れない時もある。眠りに入る時間が遅くなると、起きる時間も遅くなるので、1日が24時間ではなく28時間くらいになってしまって、サイクルが崩壊しちゃうんです。

――うわあ。それにしても高野さんはエンターテインメントを作るんだ、という姿勢が徹底している印象があります。でもお話をうかがっていると、きっかけがあるというよりは、もう先天的というか。

高野:そういう風に生まれついちゃった。人間、好きなことに理由なんてないですよね。

――新作の『ジェノサイド』は壮大なスケールの話ですね。ウイルス学者だった父親からある研究を託された日本人青年、アフリカでの極秘任務を命じられた傭兵たち。このまったく無関係な人物たちの行動が、実は重大な事実のもとに結びついている。生物学的なことから時事問題まで、さまざまな情報が詰め込まれていて圧倒されます。

高野:20歳の頃に読んだ立花隆さんの『文明の逆説』に、ある生物進化の可能性が書かれてあって、それで物語を作れないか、ずっと考えていたんです。本格的に調べはじめたのは2005年か6年くらい。3か月ほど資料にあたったんですが、この時はあまりに大変だと思って投げ出したんです。しかし08年に覚悟を決めて、そこから9か月間、資料を集めて下調べをしました。原稿書きに入ってからも並行して調べ続けていましたね。これは無理じゃないかと、ふたたび投げ出しそうになった時期もありました。そんな時に、北里大学教授の長瀬博先生が本当に親切に教えてくださって、それが命綱となりました。それにしても、専門家の世界はこの小説に書かれているレベルではないですね。素人からすれば、それこそ人智を超えているように思えます。小説では、ストーリーを進める上での必要最低限の情報しか書いていませんが、実際には、もっとすごい人たちが、とんでもない頭脳労働で、科学の最先端を切り開いていっています。

――人類の戦争の歴史、虐殺の事実など非常に過酷な現実も描かれていますよね。『幽霊人命救助隊』のようにユーモラスな小説でも現代の自殺問題が含まれていたりと、難しい事柄に正面から向き合っているように思います。高野作品にはただ面白い、興奮した、だけでは終わらない深さがあります。

高野:作品による部分もあるんですが、今までやってきたのは"逃げない"ということだと思います。『13階段』も、死刑制度というものをサスペンスを盛り上げるための道具として使って、あとはエンタメに徹するという作り方もあったと思います。それも悪いわけじゃない。でも、死刑制度という問題を避けて通るか正面からやるか、迷ったら逃げずにやる、ということにしました。逆に、無理に掘り起こす必要がないものはそのままにします。今回は構想段階でやっぱり戦争という問題が出てきてしまって。人間はいつから争っていたのか。今だって舞台となるコンゴでは戦争をしているし、アメリカだって戦争をしている。そうなると逃げずにやるしかないんですよね。

――残酷な現実を取り込みながらもしっかりエンターテインメントとして着地させるところがすごいと思います。次回作はもう構想はありますか。

高野:なるべく早いうちに書こうとは思っているんですが、まだストーリーが決まっていないんです。決まったら書きはじめます(笑)。連載になると思います。

――ちなみに、今後映像のお仕事は...。

高野:お話をいただければ、もちろんやります(笑)。

(了)