第118回:桜木紫乃さん

作家の読書道 第118回:桜木紫乃さん

北海道を舞台に、そこに生きる人々の姿を静謐な文章でつづる作家、桜木紫乃さん。釧路で生まれ育った少女が、ある日アパートの一室で見つけた一冊の文庫本とは。読めばいつだって気合が入るという小説や漫画とは。大好きな小説と作家、意外な趣味(?)、さらには一人の女の波乱の人生を描いた最新作『ラブレス』についてもおうかがいしました。

その3「道頓堀劇場で"小説"を感じる」 (3/4)

恋肌
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桜木 紫乃
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氷平線
『氷平線』
桜木 紫乃
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――ふふ。桜木さんがストリップがお好きだということは耳にしております。きっかけは何だったんですか。

桜木:清水ひとみさんという有名な踊り子さんがいるんですけれど、以前はススキノの道頓堀劇場のスターだったんです。北海道新聞の人物紹介の欄で、何回かに分けてその方が紹介されていたんですよね。それで興味をおぼえて一人でススキノのストリップ劇場まで行って、ああ、これは小説だと思ったんです。デビューする前ですね、小説を書き始めていた頃ではありました。ミレニアムがどうのって騒いでいた頃でしたから。

――いきなり一人で観にいったんですか。

桜木:怖いもの知らずでねえ。手を叩いているおじいさんと「この子好きー?」とか会話して。カップルで観に来ている人たちもいたけれど、おばさん一人というのは私だけでした。

――小説だ、と思ったのはどういうところですか。

桜木:作りこんでいるんですよね。風呂屋の裸とは違うっていう(笑)。ムダ毛のないきれいな身体にスポットライトを当てて、ひとつの世界を作り上げている。出会い、満足、別れ、哀愁...踊り子さんによってはちゃんと世界があるんですよ。20分のステージでそれを演じて去っていく。それが短編小説みたいだと思いました。小説を書かせていただけるようになってから、楽屋に取材に行ったことがあるんですが、興行主の方が「見せるな、隠すな、だから難しいなあ」とおっしゃっていて。そこでも、ああ、小説だって思いました。踊り子さんたちは笑いながら恥ずかしいところを見せているんですよね。私も笑いながら文章で恥ずかしいところ見せなければと思いました。作りものにするためにムダ毛を剃ってスポットライトをあてて、表紙を舞台だと思って。

――今でもよく観にいくんですか。

桜木:札幌にあった頃は月に1回くらいは行っていたんですが、もうなくなってしまったんです。最近は東京に出てきた時には渋谷の道頓堀劇場や浅草のロック座に行きます。女性編集者とその話になって「行くかい?」って言ったら目を輝かせて「はい!」というので「ついておいで」「どうだいこの世界は」と、おっさんみたいに偉そうに言っています。
理想を持ってやっている踊り子さんたちからは気概が伝わってきますね。手足だけ動かしている子もいっぱいいる。表現したいことを持っている子とそうでない子ははっきりわかりますね。踊り子さんが出てくる短編も書きました。『恋肌』の中の「フィナーレ」です。これはもともと長編で300枚あったものを50枚に削ったんです。250枚何を書いていたんだろうって話ですけれど。

――そんなに削ったんですか。もったいない気も...。

桜木:『氷平線』に入っている「霧繭」という短編も、実は清張賞に応募したもので300枚あったのを250枚捨てたんです。最終まで残していただいたものを、えーい、と削りました。どこをひっぱりあげれば短編になるのか勉強になりましたね。短編で表現できることを長編にしたから中味が薄かったんだと思いました。短編には短編に相応しい話があるし、長編には長編に相応しい話がある。例えば、『ラブレス』を短編にするのは無理ですし。

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