第130回:辻村深月さん

作家の読書道 第130回:辻村深月さん

今年の7月に『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞した辻村深月さん。幼い頃から本に親しみ、小説家に憧れてきたという辻村さんは、どんな作品を読み、何を感じてきたのか。また、作品に描く地方都市の人間関係や思春期の息苦しさは、ご自身の体験と重なるところはあるのでしょうか。今回は、小説家を目指した一人の少女の成長物語としても読める読書道です。

その3「綾辻さんを中心に広がる読書」 (3/6)

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――さて、小学生時代の読書経験は、ほかには。

辻村:小学6年生の時に綾辻行人さんの『十角館の殺人』を読みました。それまでもミステリは好きでしたが、これを読んで自分の中のミステリ観が究極の刷新をしたというか。今いちばんエッジの立ったミステリがここにある、と思いました。新本格と呼ばれるものも知って、そこから読んでいきました。

――辻村さんの辻の字は綾辻さんからいただいたんですものね。そこから中学生時代は新本格にどっぷりはまって。

辻村:綾辻さんを真ん中にして、綾辻さんと親交のある新本格の人を読んでいきました。法月綸太郎さん、我孫子武丸さん、歌野晶午さん、有栖川有栖さん...。島田荘司さんのこともこの頃に知ったし、新本格ではないけれど、北村薫さんや宮部みゆきさんを読んだのもこの頃です。宮部さんと綾辻さんが同じ回で推理作家協会賞を受賞されて、それまでも宮部さんのお名前は気になっていたのでそれが手に取るきっかけになりました。

――いずれにせよ日本のミステリを中心に。

辻村:そうなんです、私の十代の読書体験って海外小説が抜けているんです。図書館に入っているものを時折雰囲気で借りて読むか、書店で1章を立ち読みして買うか買わないか決めていました。山梨の田舎で娯楽も少なかったし、父が休日に車で書店をあちこち回っていたので、それに付き合うというのが休日の過ごし方でした。その時に一緒に買ってほしい、と頼んでいました。

――あ、お父さんも読書家だったのですか。

辻村:父の本棚にはハードボイルド系の作家が並んでいました。そこで北方謙三さんや大沢在昌さんを読んで知る、という感じでした。あまり父とは本の話をしたことがなかったんです。でも私の吉川英治文学新人賞の授賞式の時に、私の知らないところで父が大沢さんにご挨拶をしていたらしくて。やっぱり大好きだったんだ、って思って、親孝行できたようで嬉しかったです。

――中学生時代、ミステリのほかには何を読みましたか。

辻村:田中芳樹さんを読んで、そこで可能な限りノベルスを追いかけることにしました。『創竜伝』や『銀河英雄伝説』、『アルスラーン戦記』が好きでした。学校でもまわりのクラスメイトも読んでいたし、登場人物の中で結婚するなら誰がいいか、なんてことを真剣に話すのがものすごく楽しかった。そこからノベルスの判型を中心に本を選んで山田風太郎さんや夢枕獏さんを読み、菊地秀行さんの『魔界都市ブルース』に熱狂し・・・。菊地さんや大沢さんを読んだので、新宿は怖いところだなって思っていました(笑)。あとは綾辻さんが推薦文を寄せられていたので読んだのが京極夏彦さん。ノベルスで影響を受けた人を3人挙げるとするならば、綾辻さん、京極さん、田中さんですね。特に田中さんの『創竜伝』は、最初に出会ったのがあの本でなければ、その後ノベルスを中心に読書することはまずなかったと思うので、それこそ人生を変えられてしまったのだろうと思います。

――クラスの中に本の話ができる人がたくさんいたんですね。

辻村:友達に恵まれました。『銀英伝』は男子も読んでいましたし、あと女子とは島田荘司さんを読んで御手洗と石岡とどっちが好きか、という話で放課後に延々と盛り上がっていました。楽しい日々でしたね。

――辻村さんの小説には、教室内の閉塞感や女子同士の関係の難しさが書かれていて、ご自身もそういうものを見聞きしていたのかなと思うのですが、どうだったのでしょう。

辻村:クラスのメインではなかったです。ただ、本を読んだり小説を書いたりしていても、私の場合は、クラスの中心にいた子がものすごく本を読む子で、その子に守ってもらったように思います。その子の友達で本を読まない人たちのなかには、私が一緒にいることを嫌だと思っている子もいるな、とは感じていました。『オーダーメイド殺人クラブ』のアンがクラスの中心から外れないように気を遣うのとちょっと似ていたかもしれません。読書のような一人でできる楽しみって、なかなか周囲から理解されないんだと、それで居心地を悪く感じたこともありました。それで思ったのは、自分の好きなものを自分の価値みたいにしたら、きっと嫌われてしまうのだろうということ。

――自分の価値みたいにする、とはどういうことでしょう。

辻村:本でもゲームでも、「自分はすごくこれに詳しい」とか「この本高かったけれど買った」とか、本当かどうか分からないけれど「自分はこのゲームデザイナーと友達なんだ」とか言うのは、一時はみんな「すごーい」と言って寄ってくるけれど、そういう話ってだんだんと敬遠されてしまう。女子でも男子でもそういうケースをたくさん見たんです。自分が好きなものの威を借るようなことをしては絶対にしないようにしようと思ったし、本を読んでいることや、そこで見聞きした言葉は自分のものではない。自慢でもなんでもない、と思うようになりました。申し訳なさそうに読んでいたのが、たぶん友達が離れていかなかった理由だと思います。あとは『ガラスの仮面』のように誰もが読んで楽しめそうなものがあれば、クラスの人たちに貸してみんなで読むという。

――漫画もたくさん読んでいたのですか。

辻村:中学では『ジャンプ』に受けた影響が大きいです。『スラムダンク』『ドラゴンボール』『幽☆遊☆白書』、『ジョジョの奇妙な冒険』、そして『アウターゾーン』も。粒ぞろいな、私にとっての『ジャンプ』黄金期。毎週楽しみにしていました。学校の帰りに寄り道は禁止だったので、一回家に帰ってからお財布を持って自転車を漕いでコンビニに買いにいく。その時間がもったいなかった。

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