第130回:辻村深月さん

作家の読書道 第130回:辻村深月さん

今年の7月に『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞した辻村深月さん。幼い頃から本に親しみ、小説家に憧れてきたという辻村さんは、どんな作品を読み、何を感じてきたのか。また、作品に描く地方都市の人間関係や思春期の息苦しさは、ご自身の体験と重なるところはあるのでしょうか。今回は、小説家を目指した一人の少女の成長物語としても読める読書道です。

その5「大学生活、そして作家デビュー」 (5/6)

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――大学は千葉大学。山梨から出ることとなったわけですね。

辻村:なぜ千葉大にしたかといいますと、行きたい学部があったということもあるんですが、雑誌の特集で大学のミステリ研究会を紹介しているところに千葉大学があったからなんです。ミス研があるかどうかで大学を選んだなんて、今考えると親に張り倒されますよね...。綾辻さんや有栖川さんのミステリを読んでいた高校時代、大学でミス研に入ることはずっと憧れだったんです。

――実際ミス研ではどのような活動を。

辻村:1年に1回創作して会誌を作って、あとはミステリ好きが集まって飲む、みたいな感じでした。映画好きや海外ホラーに詳しい人がそれぞれ専門を分けるようにいたりして、人に薦める言い方ではなく「あれはしびれた」など、こちらに何も求めない言い方で作品を褒めているのを聞いて、そこから興味が広がっていきました。夜通し誰かの家でビデオを観たりもしましたね。

――映画も相当ごらんになったのですか。

辻村:観ました。東京の単館上映も観に行けるのが楽しかったし、あとは日本映画も勢いがあることが分かってきて。映画でいちばん好きなのは『リリィ・シュシュのすべて』です。大学の時に観て場面の美しさに目を奪われました。水田みたいなところの真ん中でヘッドフォンをつけてうつむいて音楽を聴いている男の子のポスターがあったんですが、それを観た時にこの絵に自分の青春時代全部が凝縮されているって思いました。好きなミュージシャンのライブに行ったりして自分の現実と地続きなものにできなくても、そうして都会からくるカルチャーを摂取することの幸福がそこに現れている気がしたんです。自分が書きたいものはこれなんだと思いました。

――高校時代に書き始めた『冷たい校舎の時は止まる』の執筆は大学に入ってからストップしていて、また学生生活の後半から再開したんですよね。

辻村:高校の時には受験勉強が嫌で書き始めたようなものでしたが、今度は大学生活が終わるのが嫌で書き始めたんです。友達の一人が家に来た時に高校時代に書いていたものを見つけて「読んでみたい」というので読ませたら「続きが読みたいから最後まで書き上げてほしい」と言ってくれて。ブランクはあるけれどいつか書きたいと思っていたし、何が書きたいかは決まっていたので、2か月くらいで残りの部分をすんなり書くことができました。書き上げてまとまった原稿になった時に改めて、これがどこかで本にできたら幸せだなと思いました。本当に作家になりたいと思いました。

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――それで、すぐに応募したのですか。

辻村:そこからまたブランクが2年くらいあります。地元に戻って就職して、その時も小説を書き続けていたんです。その時に書いたものが『ロードムービー』に入っているもので『冷たい校舎の時は止まる』とリンクしたものなんですが、そこでやはり、『冷たい校舎~』について白黒結論を出さないと、スピンオフ以外の小説が書けない、自分が縛られてしまう、と思ったんです。枚数の問題があったことと、憧れの綾辻さんが講談社ノベルスから出しているということでメフィスト賞に出そうと思ったんですが、白黒出てしまう賞なので怖かった。あそこを直さなかったからいけなかったんだと思わないように、半年間かけて直しを入れました。それまでは枚数が長いことばかり気にしていたんですが、悔いがないようにとエピソードを膨らませたりもして、それで出したメフィスト賞で拾ってもらいました。

――受賞の連絡の前に、綾辻さんから連絡があったそうですが。

辻村:結果を待っている頃、綾辻先生からメールが来たんです。「講談社の部長さんから、次のメフィスト賞に推している人が山梨出身、23歳、千葉大学卒業と聞いたのですが、これはあなたですよね?」って。驚いて「そうです」と返信して呆然としていたら綾辻先生が電話をかけてきてくださったんですよ! 講談社の担当の方と打ち合わせをしている時に「この人が次のメフィスト賞になると思います」という話になったらしくて。経歴を見て綾辻さんが「僕の知っている人だと思います」と言ったら編集者の方も驚いて、それで綾辻さんから連絡してもらいましょう、ということになったそうです。「書くことは絶対に逃げないから、情熱のある限り続けてほしい」と言っていただきました。

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