第131回:東川篤哉さん

作家の読書道 第131回:東川篤哉さん

本屋大賞を受賞、大ベストセラーとなった『謎解きはディナーのあとで』の著者、東川篤哉さん。ユーモアたっぷりながら鮮やかな推理でも読ませる作風が人気を博すなか、新作『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』は本格ミステリながら魔法使いが出てくるという異色作。質の高い楽しい作品を発表し続ける東川さん、やはり小学生の頃から推理小説を読んでいた模様。ミステリ好きの少年がミステリ作家になるまで、そして大ベストセラーを生み出すまでの読書生活とは?

その2「学生時代、原稿用紙で挫折」 (2/5)

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――では大学時代は...。

東川:それが...。大学の頃って本を読んでいないんです。どちらかというと映画が好きだったんです。といっても岡山なので、映画館も少ないしマニアックな映画が上映されるわけでもありませんでした。当時封切られていたものをいろいろ観ていただけです。

――その頃ってどういう映画が上映されていたんでしょうか。

東川:うーん。『プラトーン』とか『ランボー2』とか『エイリアン2』とか...そういう時代でしたね。でも結局何がいちばん面白かったかというと、『となりのトトロ』。今でこそ大人もみんな宮崎映画を観に行くけれど、当時はそうでもなかったんです。しかも『となりのトトロ』は明らかに子ども向け。大学生が観に行くのは恥ずかしかったんです。でも『カリオストロの城』の人の映画だし、評判もいいみたいだし、観に行かないわけにはいかない。結局映画館でも大学生は僕くらいだったんですが、でも観終わった時には「すごい傑作だ!」と。

――東川さんは任侠映画がお好きだと聞いたのですが。

東川:いや、東京に来てから中野武蔵野館で何本か観たくらいです。『仁義なき戦い』とか『県警対組織暴力』とか『総長賭博』とか。あとはビデオでも何本か観ていますけれど、特別詳しいわけでもなくて...。任侠マニアというわけではなくて、それをパロディにしたものが面白いなと思うんです。岡本喜八監督の『ダイナマイトどんどん』は傑作ですね。完全にコメディです。戦後GHQの支配下でヤクザ同士が対立しているけれどドンパチできないという時に、野球で対決するという話。菅原文太主演です。これは僕が個人的に傑作だと言っているわけではなくて、本当に傑作と言われている作品です。パロディとしては『セーラー服と機関銃』や『二代目はクリスチャン』なども好きですよ。

――大学時代、小説はまったく読まなかったのですか。

東川:創元推理文庫の『日本探偵小説全集』は、高校から大学の頃にかけて刊行されていたので、それは読んでいました。それに収録されている『黒死館殺人事件』は大学生の頃に読みました。

――自分でもミステリを書いてみたい、という気持ちはその頃もありましたか。

東川:大学生の頃、書こうとしましたよ。時間もありましたし。でも当時はワープロがなかったんですよね。原稿用紙に手書き、というところで挫折しちゃって。面倒くさくなっちゃうんです。今でも原稿用紙には書けないですね。それでもショートショートは何本か書きました。星新一さんが選者のショートショートコンテストに応募した記憶がありますが、作家を目指していたというよりも、小遣い稼ぎになれば、という感覚でした。確かSF風のものを書いたんですが、結局掲載はされませんでした。

――卒業後は東京に? 社会人生活はいかがでしたか。

東川:東京のガラス壜メーカーに入社しました。経理でした。でも、ずっと辞めたいと思っていました。会社って人間関係も面倒なことが多いし、職場もまたギスギスした空気で...。その頃は出勤の途中に本を読んでいましたね。でも本格ミステリではなかった。印象に残っているのは『深夜プラス1』とか『長いお別れ』、『さらば愛しき人よ』。なぜか冒険小説やハードボイルドをちょっとだけ読んでいました。その頃は古本屋で買っていましたね。高校生の頃は新刊を自分で買っていたのに、大人になると古本ばかり買うなんてせこいですよね...。そもそも地方にいると古本屋がなかったんです。東京に来たら古本屋がたくさんあるので、そこで買うようになりました。東京は映画館もたくさんありますから、映画もよく観に行きました。

――あ、そこで中野武蔵野館に...。

東川:はい。あとは古い文芸坐とか、銀座の並木座とか。並木座で黒澤映画を観たりしましたね。

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