第131回:東川篤哉さん

作家の読書道 第131回:東川篤哉さん

本屋大賞を受賞、大ベストセラーとなった『謎解きはディナーのあとで』の著者、東川篤哉さん。ユーモアたっぷりながら鮮やかな推理でも読ませる作風が人気を博すなか、新作『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』は本格ミステリながら魔法使いが出てくるという異色作。質の高い楽しい作品を発表し続ける東川さん、やはり小学生の頃から推理小説を読んでいた模様。ミステリ好きの少年がミステリ作家になるまで、そして大ベストセラーを生み出すまでの読書生活とは?

その5「執事探偵の次は魔法使い」 (5/5)

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――大ベストセラーとなった『謎解きはディナーのあとで』は毒舌の執事が安楽椅子探偵役という点が大きな特徴ですが、最初にキャラクターを思いついたのですか。

東川:執事探偵というのが真っ先に思い浮かんだんです。テレビを見ていたら執事喫茶の話題をやっていて、それを見て思いつきました。何作か書いているうちに、これまでとは違うキャラクターを作らないといけない気になっていたし、こういう人が探偵をやったら面白いかな、ということをよく考えているので、すぐ結びついたんです。

――安楽椅子探偵は好きですか。

東川:特別好きだというつもりはないんですが、結果的に安楽椅子探偵ものが多いですよね。『本格推理』に最初に書いた「中途半端な密室」もそうでした。あれはなぜそうしたのかというと、50枚という制約があったからです。本格ミステリをやろうとしたら、何か工夫をしないと50枚には収まらない。安楽椅子探偵ものにすれば、事件そのものは誰かの言葉で簡単に説明すればいいので枚数をかけずにすみ、中味の濃いミステリができると思いました。それ以降は『本格推理』に投稿する時は安楽椅子探偵ものにしていましたね。

――先行作品で好きな安楽椅子探偵は。

東川:そんなに読んでいないんですけれど...。天藤真さんの『遠きに目ありて』や都筑道夫さんの『退職刑事』、『隅の老人の事件簿』とか。『九マイルは遠すぎる』も必ずしも納得できるわけではないけれど(笑)、ちょっとした言葉から推理を展開するあのスタイルは面白いなと思いました。『黒後家蜘蛛の会』はあの雰囲気が好きですね。名士たちがわいわい喋って謎解きしようとしているなかで、給仕をしている人間がさらっと謎を解く、というのが面白い。

――『謎解きはディナーのあとで』が大ヒットして、何か生活に変化はありましたか。

東川:さすがに引越しはしました。あ、でも豪華なところじゃなくて、普通のマンションに越しただけです。あとはテレビを買い替えましたよ。地デジ化が完全に終了してだいぶたってから、ようやく(笑)。あとは特になにも...。

――以前、ミステリのブームにはサイクルがある、とおっしゃっていましたよね。社会派→ユーモア→本格という。例えば70年代の松本清張作品、80年代の赤川次郎作品、80年代後半からの新本格、90年代の警察小説......というブームを考えると、確かにそうだな、と思いました。

東川:でもどうなんですかね、今考えると間違っているような気が(笑)。でも、ユーモアの後で、ガチガチの本格の時代がきてほしいんです。"新本格の新本格"というか、新しい新本格みたいなものがあってほしいですね。島田荘司さんが『21世紀本格宣言』といった本を書かれていますが、島田さんのように明確なイメージができている人ってどれくらいいるのかなと思います。

――東川さんが書かれているものも、ユーモアミステリであり本格ミステリですよね。でも最新刊『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか』では本格なのに魔法使いが出てくるのでびっくりしました。小山田という若手刑事が遭遇する事件に、魔法使いのマリィが何らかの形で関わってくるという。この設定のきっかけはどこにあったんですか。

東川:『奥様は魔女』と『刑事コロンボ』なんですよ。

――え?

東川:結構前に「もう一度みたい海外ドラマ」みたいなランキングの記事をたまたま目にしたんですが、1位が『奥様は魔女』で2位が『刑事コロンボ』だったんです。じゃあ、この二つを合わせれば超大人気シリーズだ! と思ったんですよね。でもその頃はまったく本が売れてなかったし、本格ミステリに魔法使いを出すなんて案が通るとは思えなくて、誰にも言えませんでした。

――へえー! あ、『刑事コロンボ』だから倒叙もので、犯人は毎回セレブなんですか。魔法を使いながらもちゃんと推理部分は本格になっている点が絶妙ですね。

東川:倒叙ものというのは通常、ある程度地位のある人が犯人で、それを冴えない刑事が打ち負かすことで読者も拍手喝采するというパターンですから。魔法使いを出すのも倒叙だからできたことですよね。読者は犯人が最初から分かっているので、途中で魔法使いが登場してもアンフェアには感じない。今回、八王子を舞台にしたのは、時々行くからなんです。本当は海の見えるお洒落な町とかがよかったのかもしれないけれど、なんかピンとこなくて。

――タイトルからは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を思い出しますが。

東川:一話目を雑誌に掲載するときに、苦し紛れにつけたタイトルです。ところが単行本にするにあたって編集部から「このタイトルがいい」といわれて、結局それがそのまま採用されました。べつにフィリップ・K・ディックのファンでもなんでもないんですが......。

謎解きはディナーのあとで 3
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――もちろんシリーズとして今後続いていくわけですよね。今後小山田刑事とマリィにも展開がありそうなラストですし。

東川:そのつもりです。一冊目は二人についてあまり説明する余裕がなかったので、今後なんとかしていかないと...。単行本になるのは再来年の秋になるかと思います。

――「ダーリン」とか「うちのカミさんが」という台詞が出てくるかも...と思うと今からもう楽しみです。さて、その他の刊行予定は。

東川:『謎解きはディナーのあとで 3』が年末に出ます。来年には映画も公開されます。あとは来年の3月に、烏賊川市のシリーズの短編集が出る予定となっています。

(了)